DAVID BOWIE「I CAN'T GIVE EVERYTHING AWAY」
ボウイのアルバムを購入したのは1995年の『アウトサイド』以来だ。まぁ熱心なボウイ・ファンという訳でもなかったわけだが、最新作『★』はどの雑誌も高評価。これは聴いてみたくなる。
アルバムの制作に関してはいろんなところで書かれているが、現代ジャズ・ミュージシャンの起用は当たっている。緻密で尖鋭的なドラマー、マーク・ジュリアナの参加がサウンドへの影響大だ。ボウイとのマッチングはバッチリ。過去のエレクトロニカ/インダストリアルな作風も取り込みながら、ボウイ・クラシック的なスパイスもありつつモダンで緊張感のある刺激的な音作りに成功している。
ダークで息詰まるトーンのタイトル・トラック「★」。4分過ぎのスペイシーな展開が見事だ。 「'Tis A Pity She Was A Whore」はビッグ・バンドなポップソングという意味では1983年「レッツ・ダンス」の発展形・21世紀版といえるかも。PVも衝撃的だった「Lazarus」。ベースラインも耳に残る。インダストリアルな「Sue (Or In A Season Of Crime)」。エレクトロニカな「Girl Loves Me」。静謐でフォーキーな雰囲気もある「Dollar Days」は初期ボウイを思わずにはいられないメロディアスなナンバー。どれもバラエティに富んでいて飽きさせることがない。
このアルバムからとりあげた1曲は「I Can't Give Everything Away」。
流れるようなメロディをもったアルバムラストの曲だ。
この曲のタイトルが、よく“私は全てを与えられない”ってリスナーに向けたメッセージだって言うけど、すべてを与えられないことぐらいボウイ自身わかってることだし、わざわざ自分が病魔と闘いながら制作したアルバムの最後に、アルバムを買ったリスナーに向かって偉そうに言うか?という感じはする。単純にボウイの言葉ではなく曲の主人公の言葉としてとらえるべきかもしれないし、もっとボウイのパーソナルな人に向けたメッセージなのかもしれない。
私がこの曲を聴いて感じたのは、むしろボウイが死を予感した最後の言葉なら、命を奪う神/死神に向かって“私は最後となるかもしれない作品を残した。そして過去には多くの作品も。 その長い年月にリスナーとオーディエンスとの幾つもの思い出もある。私の身体を持ち去っても此処に作品が、人々の記憶に思い出が残る。 神よ、全てをあなたに差し出すことは不可能なんですよ”と言っているように思える。
アルバムの最後に何度も繰り返される“I can't give everygthin away”…。ボウイを愛した人々が生きている限りいつまでもボウイは生き続けている。そんなセンチメンタルな安っぽい聴き方したくないって人もいるだろうけどね(ロッキンオンで山崎洋一郎がそう書いてた)。