My Wandering MUSIC History Vol.71 松田聖子『CANDY』

1982年11月、CBSソニーよりリリースのアルバム。

大滝詠一の『DEBUT AGAIN』を聴いてオリジナル歌手・ヴァージョンを集めたCD-Rを作ろうと思っていろいろCDを出したり調べたりしていたんだけど、『DEBUT AGAIN』収録曲の他に、あー松田聖子のアルバム『Candy』にも大滝詠一が曲書いてたなぁなどと思ってウィキペディアを読んでたら、細野晴臣作曲の2曲はアナログ初期盤収録とCD化されているヴァージョンが違うというのを読んで興味が横道にそれてしまった。


 “タレントロボット タレントロボット 操られ人形
 人の作った歌を歌って さもわかったように
 騙し騙しの銭儲け”
 ―アナーキー「タレントロボット」―

松田聖子のアルバム『Candy』がリリースされた1982年当時、パンクやニューウェイヴにのめり込んでいた私の芸能界への思いはアナーキーの曲「タレントロボット」の歌詞のようだったのだが、それでもテレビやラジオで頻繁に流れている歌謡曲は小さい時からずっと接していることもあり反発しながらも耳馴染みはいいので自然に覚えてしまうようなものだった。それに女性アイドルにも興味がいく年頃。まわりでは聖子だ明菜だ薬師丸だ、とみんな贔屓のアイドル歌手のレコードを集めていたものだ。

松田聖子は登場した時からテレビに出ていたというか、デビュー曲が化粧品CMソングだったから当然頻繁に耳にするわけで、そこからずーっとまぁ松田聖子の曲は聴いていた。デビュー当時のはつらつとした印象の頃はレコードを借りて聴こうという気もなかったのだが、松本隆が作詞を手掛けるようになった後の、心の陰影を織り込んだ曲を歌うようになってからは友人に借りてアルバムも聴くようになった。この『Candy』も確かMくんかWちゃんに借りたんだと思う。

以下作曲者毎に紹介。
ストリングスが流麗なアレンジの1曲目「星空のドライブ」と3曲目「未来の花嫁」、唯一収録されたシングル曲でチャート1位になった「野ばらのエチュード」が財津和夫作曲作品。「四月のラブレター」とアナログではB面1曲目のオールディーズ風&“むすんでひらいて”「Rock'n' Roll Good-bye」が大滝詠一作曲・編曲(多羅尾伴内名義)作品。時期的に大滝にとっては『イーチ・タイム』にむけての前哨戦となった。

トロピカルな3分にも満たない小品「モッキンバード」とレゲエ・タッチの「電話でデート」が南佳孝作曲作品で、どちらもかわいらしく、アルバムのアクセントとなる佳曲だ。アコースティックギターと“ビーマイベイビー”なドラムスが印象的な旅行記「ブルージュの鐘」と若干テクノな味付けの「黄色いカーディガン」が細野晴臣作曲作品。アルバムのラストは大村雅朗作曲・編曲の「真冬の恋人たち」でしっとりとしたバラード。スケートリンクと湖畔のカフェテラスを舞台にお互いの心を確かめ合う恋人たちを描いた。コーラスというかゲスト・ヴォーカルの杉真理との絡みもとてもいい。

件のヴァージョン違いだが「黄色いカーディガン」はミックスやコーラスパートが違い、「ブルージュの鐘」はヴォーカルの差し替えがおこなわれている。録り直したヴォーカルの方がキュートな声質で、低音部や細かいところを丁寧に歌い直した印象をうける。

松本隆の歌詞は今更書くことでもないけど、アイテムの選択・配置、ディティールの描き込みが素晴らしい。『Candy』をあらためて聴いて、女性と男性(恋人同士または想いを寄せる人)との距離を測る内容の歌詞が多いなと思った。少し離れてるけど、詰めたい/詰められている、ことに戸惑う心情、ラストの「真冬の恋人たち」はその典型で微妙な距離感を描き出してる。現代のシンガーソングライターも含め歌謡曲/流行歌の楽曲にはこの微妙な距離感が希薄な感じがするなぁと思ったりもした(まぁそれほど積極的に今の流行歌を聴いてるわけじゃないけど)。

アナログ盤は見開きダブル・ジャケット、表は自転車の後ろに取り付けたバスケットにフランスパンやらを詰めた買い物帰り、裏面は新聞配達、見開きの中にはペンキ屋、写真屋と職業三変化。

松本隆の参加したのが1981年、その後はっぴえんど関連、ニューミュージック関係の作家が多数参加し作品のクオリティをあげ、デビューから2年半で到達した松田聖子のひとつのピークに位置するアルバムと思う。うちにある『Candy』は、CD・アナログどちらもリサイクルショップで安ーく買った中古品。うーん最近出たBlu-Spec買うかな…。

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