My Wandering MUSIC History Vol.73 ARB『W』

1982年6月21日、ビクター/インビテーションよりリリースのアルバム。

前作では入院していたドラムのキースが復帰、戦争・労働・女性など“W”をキーワードにしたアルバム5枚目。アルバムに先駆けて5月にはシングル「クレイジー・ラブ c/w エイリーン」がリリースされている。「クレイジー・ラブ」は作詞・柴山俊之、作曲・木戸やすひろ、と曲作りをバンド外部へ発注しシングルヒットを狙ったらしい。クラッシュ&沢田研二のス・ト・リ・ッ・パーってイメージの曲調だがヒットとはならず…。当時聴いた私もこのシングルはチャート狙いだな、とは思ったものの曲としてのインパクトは薄く、この路線じゃないだろーと思ったものだった。B面の「エイリーン」は映倫(映画倫理委員会)を揶揄したルーズなロックンロール・ナンバー。どちらもアルバム『W』に収録されている。

アルバムのオープニングは「ウィスキー&ウォッカ」で、当時の冷戦構造をウィスキーとウォッカに喩え、米ソ中の対立をユーモラスに描き出したラップ調のファンキーなナンバー。クラッシュの「Magnificent Seven」の影響下にあったとも思えるが、田中一郎のギターがキレてるし、パーカッションも多彩に使用した軽快な曲だ。自分達も含めた日本のロックがチャートに上がらない歯がゆさ。なんとしても自分達のやり方で芸能・歌謡界のシステムに切り込んでいきたい。その石橋凌の思いを詰め込んだ「ユニオン・ロッカー」では、芸能界の“イカサマ野郎”を“高く吊し上げろ!”と同志ロッカー達へ連帯を熱く叫ぶ。

つらい繰り返しの日々に別れを告げたくても、夜が明ければまた振り出しに戻る…「Heavy Days」は石橋凌作のスローなワークソング。ビートルズの「The Ballad of John And Yoko」のような「二人のバラッド」はフォーキーな曲調でエンディングをビートリッシュに決める。 “家事なんてしなくていいから俺に愛だけおくれ”という柴山俊之作詞の「愛しておくれ」は、マディ・ウォーターズ「I Just Want To Make Love To You」のソフト訳版という感じだ。曲は田中一郎作。工業都市で働く男女をモチーフにした「モノクロシティ(Man Stand Up, Woman You Too)」、今夜もまた午後6時からステージでサックスを抱く男…激しくバップするサックスプレーヤーを描いた「SIX,SEX,SAX」はエキサイティングなロックンロールナンバー。

当時石橋凌は新宿ロフト(西新宿・小滝橋にあった)の近く住んでおり、ロフトにいることが多かったという。確か夜のライヴが終わって片付けが済むとロフトはパブタイムってことで、まぁ飲み屋になっていたから、自分達のライヴの後の打ち上げだけじゃなく、知り合いのバンドのライヴ終了後でも打ち上げに参加していることが多かったようだ。そんなバンドマン達やロフトに集うファン達の夜の生態を歌った「LOFT 23時」。サンジの印象的なベースフレーズ、スカのギター・カッティングを刻む田中一郎、ダビィなキースのドラム、ARBにしか作り上げることが出来なかった“ロフト賛歌”。この曲を聴くと小滝橋通りが目に浮かぶ。今は随分あのあたりも様変わりしたようだけど…。 

不気味な静けさをもった「ハ・ガ・ク・レ」。ネオン眩いトウキョウを眺める古風な身なりをした男と女。 “Working Heroin”や"Union”等の単語が出てくるアルバムの中で日本的な印象を前面に出した異色作。これも石橋凌が表現したいと考える一面だと思えるし、石橋凌の持つ美意識の現れだろう。 田中一郎のギター・ワークが幻想的。この曲にとってのキーワード“W”は何だろうかと考えると“和風”かな?(そのままだって)

まぁシングルカットを妄想するなら「ウィスキー&ウォッカ c/w LOFT23時」かなぁ。 12インチも同時リリースして両曲のリミックス、ダブ・ヴァージョンも収録して「W&W Dance」、「LOFT Dub」とかね(それじゃクラッシュだって)。 

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