My Wandering MUSIC History Vol.74 ZELDA『ZELDA』

1982年8月25日 フィリップス/日本フォノグラムよりリリースのアルバム。

1978年9月ボーイズ・ボーイズ結成(メンバーはBチホの他Gエミ、Voクミ、Drカズミ)~1979年3月頃チホ脱退、チホは自身が発行していたミニコミChange2000の創刊号で新バンドのメンバーを募集、ゼルダ結成。この時サヨコはオーディションで落選している。
1980年1月3日新宿ロフトで“80年にスパークするモダンガールズ”と題されたライヴに出演(共演はボーイズ・ボーイズ、水玉消防団、ノンバンド)、Bチホ、Gヨーコ、Drマル、ヴォーカルは後にP.T.A'Sに参加するケイという女性でサヨコは客席から見ていたという。
1980年3月30日新宿ロフトでライヴ。ヴォーカリストが抜け、この日から当時まだ15才だったサヨコが参加(共演はS-Ken、不正療法、スタークラブ)。
1980年4月6日アトリエ・フォンティーヌにてサヨコが参加して2回目のライヴ、このライヴの後サヨコが正式加入。
1980年10月ジャンクコネクションから3曲入りEP「ASH-LAH」、
1981年アスピリン・レコードから3曲入りソノシート「MACKINTOSH-POPOUT」のリリースを経て、1982年8月にリリースされたのがゼルダのメジャー・デビュー・アルバム『ZELDA』。 

アルバムと同時にシングル「ミラージュ・ラヴァ― c/w 密林伝説」がリリースされている。
デビュー・アルバムの制作は難航したようで、自分たちでレコードを作ってそれをレコード会社に買ってもらうという原盤システムをとったようだが、ゼルダのメンバーの思い描いた通りには進まなかった。プロデュースは彼女たちがシンパシーを感じていたリザードのモモヨだったが、モモヨ自身はアルバム全曲が彼女たちの作詞・作曲の楽曲では大衆性に欠けるとして、 楽曲を提供するもののゼルダのメンバーは反発、特にヴォーカリストのサヨコは他人の詞を歌う事に強く抵抗したが結局涙ながらに歌入れをしたという。

メイン・ヴォーカルを数曲ほかのメンバーが担当するという案も出されたがサヨコはこれを拒否した。また、彼女たちメンバー以外のミュージシャンをレコーディングに使用(モモヨ作3曲は、じゃがたらのていゆうがドラム、リザードのワカがベースを演奏、モモヨがギターで参加)するなど、モモヨの強引なプロデュースに強い拒否反応を示し“恐怖政治”だったと語っている。

だが、モモヨに言わせればフォノグラムとの契約以前、アルバム制作を進めていたレコード会社が制作から下りてしまい、モモヨが急遽作った3曲をもとにアルバム制作を続けさせてくれるよう音楽出版社にもちかけ原盤制作、レコーディング中にモモヨが昏倒するようなハードワークの結果、無事にフォノグラムからリリースに漕ぎつけた、ということでもあるらしい。

そのモモヨ作詞作曲の「エスケイプ」でアルバムは幕を開ける。 “Go Go!”と“午後”の言葉選びが面白いスピーディーでポップナンバーだ。アナログではA面3曲目にキラキラしたシンセのフレーズが印象的な「ムーンライトフライト」、アナログB面の1曲目にダンサブルな「ミラージュ・ラヴァー」、このモモヨ作の3曲はどれもポップで確かに大衆向けだしアルバムの要所に配置されているなと感じる。私自身も初めてこのアルバムを聴いたときはやはりこの3曲に惹かれたものだ。

ゼルダのオリジナル曲は、サックスが加えられた「真暗闇ーある日の光景ー」、機械仕掛けの社会を歌った「ロボトメイア」(ライヴではパンキーに演奏されていて元のタイトルはBe-Popだった)、奇妙な寂寥感漂う「開発地区はいつでも夕暮れ」、小栗虫太郎にインスパイアされたと思われる、掛け合いのヴォーカルが特徴的でエキゾチックな「密林伝説」、「Ash-Lah」はジャンクコネクション・ヴァージョンと比べると、歌詞を再編集、アレンジもすっきりとさせて約2分程短縮したものに。

「と・ら・わ・れ」は個人的には凄く好きな曲。冒頭に “あなたは公園で子供の足首を…”というスローなパートが加えられたライヴ・ヴァージョンがFMで放送されたのだが、その禍々しい凶行を描いた内容は強烈な印象を私に残した。このアルバムでは冒頭のスローパートは無いが、退屈な日々を “日常の地獄に囚われてゆくあなたの意識” と綴り歌う部分は演奏パートとのマッチングが素晴らしい。ジャンクコネクション盤ではモモヨのエフェクト遊び(あれはあれでホラーじみた音像が面白いと思うけど)だった「ソナタ815」は、アヴァンギャルドなヴァージョンから、語り掛けるポエトリー・リーディング風のヴァージョンに生まれ変わった。

このアルバムのオリジナル曲の作詞作曲クレジットは全てバンド名ゼルダ名義だが、作詞はサヨコが中心と思われる。あなたと私の恋愛関係を描くわけでもなく、10代の少女の視点から見た社会、1980年代前半の繁栄という名のもとに現れ・消失してゆく風景、そこで生きる人々の感情、現代にとどまらず文学や歴史等も見据えながらイマジネーション豊かな表現で描いている。

今聴いても魅力的な曲達。モモヨ作の3曲は確かに口ずさみ易いポップさがある。だがどうだろう、この3曲を収録せず、ゼルダのオリジナルを3曲加え、オリジナルナンバー全10曲でアルバムを作っていたなら。当時既にレパートリーがかなりあったのだから、それもとても魅力的なものになったのではないだろうか。このデビュー・アルバムはバンドの素の姿をパッケージできなかったとも言える。それは似合わぬ厚化粧と衣装の四人を写したジャケット(目黒雅叙園におけるフォトセッション)にも現れていると思う。

けれども今回改めて聴いてみてアンダーグラウンドの香りを残しつつオリジナル曲も含めカラフルで重層的なアレンジが施されているモモヨのプロデュース・ワークには、長い年月に耐えるものを作り上げているな、とも感じる。

参考文献:藤沢映子著『ZELDA物語』、菅原庸介著『蜥蜴の迷宮』、地引雄一著『ストリート・キングダム』、鳥井賀句編・『ロッカーズ1983』、DOLL増刊『パンク天国4』、CD『GOLDEN☆BEST ZELDA~time spiral』小嶋さちほによるライナーノート

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