My Wandering MUSIC History Vol.75 THE STALIN『STOP JAP』
ザ・スターリンのメジャーデビュー・アルバム。
インディでのEP『スターリニズム』やアルバム『トラッシュ』は借りて聴いた気がするが、当時スターリンは放尿、臓物投げなどの過激パフォーマンスの話題が先行しており、それほど身を入れて聴いてなかったなぁ…。この時期じゃがたらも流血などの過激パフォーマンスが話題になっていて、私が両バンドともこのあたりの音源に興味を持つのはずっと後になってからだ。
イギリスやアメリカの初期パンク、東京ロッカーズ、九州勢のルースターズ等と聴いてきて、 この頃にはイギリス・ニューウェイヴへ興味が急速に傾きだした頃。ピストルズ・スタイルのパンク・サウンドのザ・スターリンは逆戻り感があったことは確かなのだが(なにしろピストルズ実質解散から4年以上たってるからね)、黒地に日の丸、黄色い矢印付Sのジャケットも鮮烈な印象を残す『ストップ・ジャップ』はよく聴いた。
オープニングナンバーはアルバムと同日にシングルとしてもリリースされた「ロマンチスト」。インディの『トラッシュ』に収録されていた「主義者(イスト)」の再録で歌詞が追加されている。「STOP JAP」、「極楽トンボ」、「下水道のペテン師」は次作へ通じるハードなパンク・ナンバー。EP『スターリニズム』から「コルホーズの玉ネギ畑」の再録「玉ネギ畑」、別ミックスがシングル「アレルギー」として翌月リリースされた「アレルギーα」、性急な演奏と激しい言葉を叫ぶミチロウのラヴ・ソング「欲情」、もろピストルズな「MONEY」までアナログではA面に9曲が収録されている。
個人的にはB面のマイナーコードを使ったややウェットな印象の「STOP GIRL」~一転してドライな「爆裂(バースト)ヘッド」~ ギター・カッティングがカッコいい「MISER」の流れが好きだった、というか今も好き。ハード・コアな「負け犬」、抑えたヴォーカルの「アレルギーβ」、インディの『トラッシュ』ではライヴ・ヴァージョンが収録されていた「メシ喰わせろ!」はタイトルを「ワルシャワの幻想」として再録してアルバムは終了。
メジャーデビュー後、ミチロウは “サウンドのオリジナリティはどうでもいい”というような事を言っていたが、ドアーズ、イギー・ポップ、パティスミス・グループ、コントーションズ、ピストルズ、PIL、ジョイ・ディヴィジョン、GBH、ディスチャージ…ジャックス…。それらがスターリン・サウンドのバックボーンにあるとしても、遠藤ミチロウの言葉と混ざり合ってモノマネじゃないリアリティを持つ。
“吐き気がするほどロマンチックだぜ”(「ロマンチスト」)
“愛するためにはウソがいる”(「下水道のペテン師」)
“どうせウソだとわかっているさ”(「MONEY」)
“嫌だと言っても愛してやるさ”(「STOP GIRL」)
“おまえらの貧しさに乾杯!”(「ワルシャワの幻想」)
ミチロウの幾つもの名フレーズを世に知らしめたアルバムでもある。
ザ・スターリンというバンド名も“理解より誤解を求める”ことから名付けているような事を言っていたし、そのステージは、“嫌悪感や憎悪によって日常を非日常に転化させる”、ともミチロウは語っていた。収録曲「MONEY」の歌詞、
“オレは世間の嫌われものさ
ゴミ溜め ヘンタイ 落ちこぼれ
輝くために居るんじゃないんだ
この世をドブにするためだ ”
あらためてこのアルバムを聴いて、この時期ミチロウが目指したザ・スターリンの存在はこの歌詞に集約されているんじゃないか、とも思う。
録音時のメンバーはミチロウの他、ギター・タム、ベース・杉山晋太郎、ドラム・乾純だが、乾はアルバム・リリース前に脱退している。『ストップ・ジャップ』はLP初回盤のみカラー・レコード、ソノシート「肉」が付属していた。
以前に紹介済みだが、2007年にいぬん堂から無修正版『ストップ・ジャップ・ネイキッド』がリリースされている。