THE SMITHS「I KNOW IT'S OVER」

2017年10月25日リリース、『ザ・クイーン・イズ・デッド~デラックス・エディション』より。

ザ・スミスの1986年6月にリリースした3枚目のオリジナル・アルバム『ザ・クイーン・イズ・デッド』が3枚のCD(日本盤はSHM-CD)、1枚のDVDというデラックス仕様でリリースされた。オリジナルに加えて収録曲の別ヴァージョン、ライヴ・ヴァージョン、映像と多角的に『ザ・クイーン・イズ・デッド』を堪能出来るデラックス版だ。

CD1はオリジナル『ザ・クイーン・イズ・デッド』の2017年最新リマスターで、マスタリングはダン・ハーシュとビル・イングロットのコンビによる。
CD2は“アディショナル・レコーディング”と題された『ザ・クイーン・イズ・デッド』収録曲のデモ、別ヴァージョン、シングルB面曲を集めたもの。

CD3は“ライヴ・イン・ボストン”と題されたザ・スミスにとって2回目の北米ツアー中の1986年8月5日、マサチューセッツ州マンスフィールドにあるグレート・ウッズ・センター・フォー・パフォーミング・アーツ(現在はエクスフィニティ・センター)で行われたライヴを収録。
当日は19曲が演奏されているがCDに収録されたのは13曲。このパッケージのどこにもクレジットがないが、クレイグ・ギャノンが参加していた5人態勢での演奏だ。クレイグ・ギャノンはザ・ブルーベルズやアズテック・カメラに一時期在籍していたギタリストだが、『ザ・クイーン・イズ・デッド』リリース直前にドラッグ依存でバンドを解雇されたアンディ・ルークの代わりにベーシストとしてザ・スミスに加入、アンディがすぐに戻ってきたためセカンド・ギタリストとしてバンドに参加した。

既に1988年にリリースされている1986年10月23日のライヴを収録したライヴ・アルバム『ランク』に比べ 今回の『ライヴ・イン・ボストン』は各楽器・ヴォーカルともセンターにまとめて配置されているので楽器のセパレーションが今一つ、そのせいか「How Soon Is Now?」、「The Queen Is Dead」、「Rubber Ring/What She Saidメドレー」といった曲では2本のギターを活かした演奏を聴かせるが、その他のシンプルでジャングリーな曲ではクレイグが参加した効果があまり確認できない。まぁもともとギターのアンサンブルはあまり考えられていないのでは…。 クレイグは1986年10月終わりにバンドを解雇されている。

DVDにはアルバム『ザ・クイーン・イズ・デッド』2017年マスターの96kHz/24-bit PCMのハイレゾ音源(うちに再生環境ないけどね)と、デレク・ジャーマン監督『ザ・クイーン・イズ・デッド』ショート・フィルム (「The Queen Is Dead」、「There Is A Light That Never Goes Out」、「Panic」の映像作品)を収録。

ザ・スミスは当時熱心なファンの友人がアルバムや12インチを持ってて、初期から『ザ・クイーン・イズ・デッド』までは借りて聴いていた。その友人の好みがブルースへと移り、スミス・コレクション(アナログ盤)は私が買い取った。『ザ・クイーン・イズ・デッド』はこれまでアナログで聴いていてCDは持っていなかったのだが、今回の2017年リマスターは、なるほど楽器の分離がよく、低音は低く、高音は煌びやかに、ミドルもしっかりと音質はよくなっている。まぁ各パート一丸となった迫力のあるアナログ盤もいいんだけれど。

CD1とCD2はゲイトフォールド紙ジャケに2枚組として収納、アルバム・ジャケットの映画『さすらいの狼(原題:L'Insoumis)』(1964年公開)のアラン・ドロンは、オリジナル盤と異なり左手が僅かに持ち上がったシーンが使用され、色彩もグリーンからブラックに変更、ゲイトフォールドの内側はサルフォード・ラッズ・クラブの前にたたずむザ・スミスの面々から、『ハットフル・オブ・ホロウ』のジャケTシャツを着た女性が機動隊に立ち向かう姿を捉えたカラー写真に変更されている。

今回とりあげたのは「I Know It's Over」。
ワルツ風のサウンドにのせて終わってしまった愛を歌うモリッシー。登場人物は僕、そして君=花婿と彼女=花嫁のカップル。
“彼女は君を愛しているというよりは必要としているんだけどね”
このひと言で僕が愛しているのは彼女ではなく君(花婿)と思える。だけど、その思いが叶えられる事は無かった。僕は君に言われたことを思い出す。
“そんなに賢く、愉快でハンサムというなら、どうして今夜ひとりぼっちでいるの? 今夜もいつもと同じひとりぼっちの夜だって知っているよ。他の人がお互い抱き合って過ごしている間に、その栄光と魅力を唯一の友達にしな…。”
その後、僕の言葉が続く、
“人を笑うのも憎むの簡単だ、だけど優しく親切にするには勇気と強さが必要だ。愛はナチュラルでリアル、作り物でも空想でもないんだ。君の為じゃない、今夜は違う、君のものとは違う、僕の愛は。”

しかし悲しみに打ちひしがれる僕は語りかける。
“終わってしまったのはわかっている。だけどまだ、しがみついてしまうんだ。あぁ母さん、僕の頭の上に泥が降ってくる…。”(歌詞の大意)

まさにザ・スミスを形容するとき使われる“miserable”な歌詞。リリース時の中川五郎の訳では“soil”が“汚物”と訳されていたが、今回の(というかいつから変わったのか)“泥”のほうが曲にあっていると思う(対訳は小林政美)。頭に土が降りかかるというのは失意のあまり生きながら埋葬されたような気分の比喩だろうか。

リリカルなアコースティックギターのストローク、マイクのリム・ショットのエコー感、アンディのアタックが強く、スライドするベース、モリッシーの抑制された漂うメロディ、ジョニー・マーがこのアルバムのレコーディングから使用し始めたエミュレーター(デジタル・シンセ)のストリングスも効果的に使われている。
モリッシーが考える“愛”について、その一端を窺い知ることが出来る曲だと思う。

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