My Wandering MUSIC History Vol.80 ECHO & THE BUNNYMEN『PORCUPINE』
エコー&ザ・バニーメンの3枚目のアルバム。私にとっては初めて聴いたバニーズのアルバムだった。この頃のバニーズは音楽雑誌の評論家やミュージシャンの間でも評価が高く(花田裕之も気に入ってるバンドだってインタビューで答えてたし、ゼルダのさちほも1983年のベスト・アルバムに『ポーキュパイン』を選んでた)、中古で売っていたこのアルバムを見つけ購入。たぶん1984年の春頃だったと思う。
まずそのジャケットからしてアーティスティックで、凍り付いた広大な滝を見下ろす場所に佇むバニーメン。アナログのLPジャケットはちょっとした迫力だ。
イントロのヴァイオリンの響きがエキゾティックな印象の1曲目「The Cutter」。
ショットの強烈なピート・デ・フレイタスのドラム、ビートに絡みつくようにグルーヴを生み出すレス・パティンソンのベース、空気を切り裂き・震わせるウィル・サージェントのギター、甘くクールなイアン・マッカロクのヴォーカル。冒頭からバニーズの世界に引き込まれる。「The Cutter」はイギリスでは1983年1月にシングル・リリースされ、バニーズとしては最初のトップ10ヒット(全英8位)となったナンバー。
ヴァイオリンを弾いているのはインド人ヴァイオリニストのシャンカールで、ウィル・サージェントがシャンカールに“キャット・スティーヴンスの「Matthew & Son」のメロディみたいなイントロをつけてくれ”と言ったことから、このヴァイオリンのイントロが加えられたという。もともとのアレンジはイアン曰く“ウィルのスパイキーなギターがグレートなナンバー”で、少しテンポが遅い。(この元のヴァージョンは「The Original Cutter」として1983年7月にイギリスでリリースされた12inchシングル「Never Stop」のカップリングに収録された)。
2曲目「The Back of Love」はイギリスではアルバムに先駆けて1982年5月にシングルリリースされ彼等初のトップ20(全英19位)となったナンバー。もともとは少しスローな曲調で“Taking Advantage”という曲名だった。1982年2月にBBCラジオで放送されたピール・セッションにその曲名での演奏が残されている。
英国人作家ジョン・ウェブスターの戯曲『The White Devil(白い悪魔)』からの影響といわれる、寒々としたナンバーの「My White Devil」。ジョン・ウェブスターの名前と彼のもう一つの有名な戯曲『The Duchess of Malfi(マルフィ公爵夫人)』の題名も歌いこまれている。中間に挟まれた木琴の音色も印象に残る。
“私の手の中で粉々になったクレイ(粘土)”や“私は砂で作られていなかった”、 “ 氷で作られたあなたの心”といった表現と“Am I the half of half-and-half or am I the half that's whole? ” といった謎かけのような歌詞の「Clay」。そのタイトルはカシアス・クレイをも暗示するといわれているが…。スピーディなアレンジも聴きものだ。
アナログ盤ではA面のラストに収録されていた、アルバム・タイトル曲「Porcupine」は6分に及ぶ長尺のナンバー。マシーナリーなイントロと緊張感を呼び起こすギターカッティング、深みのあるイアンのヴォーカル、起伏に富んだ幻想的で多彩なアレンジが高揚感をもたらし6分の長さを感じさせない。歌われている歌詞の一部“PINING FOR THE PORK OF THE PORCUPINE”はインナーシートに印刷されている。
アコースティック・ギターのイントロで始まる「Heads Will Roll」。ここでもシャンカールのヴァイオリンがシタール的なフレーズを聴かせている。シタール的なヴァイオリンの使われていないヴァージョンが“Summer Version”として、1983年7月にイギリスでリリースされた12inchシングル「Never Stop」のカップリングとして収録されている。
切っ先鋭いギターが特徴の「Ripeness」は冷ややかでスピーディなナンバー。
イアンが好きなフランドルの画家ヒエロニムス・ボスの三連祭壇画「The Garden of Earthly Delights(快楽の園)」から影響を受けて作られたという「Higher Hell」はダークな曲で、もともとは“An Equation”という曲から発展したものと思われる。 “An Equation”という曲名では1982年2月にBBCラジオで放送されたピール・セッションでの演奏が残されている。イアン曰く“暗く狭い部屋に閉じ込められたような”曲の「Gods Will Be Gods」。
アナログ盤でのラストは波の音が随所に挿入され、大きくフューチャーされたハンドクラップと絡み合うギターの響き、高らかに歌うイアンの声が荒寥とも幽玄ともいえる独特の世界を作り出している「In Bluer Skies」で幕を閉じる。
プロデュースはキングバードことイアン・ブロウディ。『ポーキュパイン』はイギリスのアルバム・チャートで2位を記録するヒット・アルバムになった。
プロモーション・ヴィデオも制作され、『 Porcupine - An Atlas Adventure』と題された6曲入りのヴィデオ作品がリリースされている。収録曲は「In Bluer Skies」、「The Cutter」、「My White Devil」、「Porcupine」、「Heads Will Roll」、「The Back of Love」で、ジャケットの凍り付いた広大な滝を舞台にしたり、ロシアンなポスターや光と影をうまく使った室内での演奏シーンなどが見られる。このヴィデオのいくつかを見ると、なるほど“サイケデリックな”という言葉が使われるのもうなずける。このヴィデオ作品再発してくれないかなぁ(一部は日本でも発売されたヴィデオ『ピクチャーズ・オン・マイ・ウォール』に収録されているけど)。
ジャケットのロケーションは今回調べてみたら、アイスランドのGullfoss Waterfallという場所のようだ。
エコー&ザ・バニーメンはネオ・サイケデリックと呼ばれていたが、私自身はこの時まだヴェルヴェット・アンダーグラウンドやドアーズなどをほとんど聴いていなかったころ。サイケデリックとは縁遠かったが、バニーズを一つのきっかけにして60年代のサイケデリック・ロックに興味を持っていった。オリジナル・サイケデリック・ロックからブルースの要素を抜きにしたらネオ・サイケデリックになるって後々評論家の誰かが書いてたが、パンク・ロックを通過した後のサウンドの表現としては、なるほどねと思う。
エコー&ザ・バニーメンはザ・クラッシュが空中分解した後、洋楽では一番追いかけていたバンドだったな、個人的には。
参考文献:Four Disc Set『CRYSTAL DAYS 1979-1999』liner notes(2001年)、Reissue CD『PORCUPINE 25th Anniversary』liner notes(2003年)