RICHARD HELL & THE VOIDOIDS「BLANK GENERATION」

2017年11月24日 Sire/Rhinoからリリースの『BLANK GENERATION -40th Anniversary Deluxe Edition』より。

リチャード・ヘル・アンド・ザ・ヴォイドイズが1977年にリリースしたファースト・アルバム『ブランク・ジェネレイション』が、CD2枚組の40周年記念デラックス・エディションとしてリリースされた。CD1枚目にはリマスタリングしたオリジナル・アルバム『ブランク・ジェネレイション』10曲。1990年にリイシューされた時に別ヴァージョンに差し替えられていた「Down At The Rock And Roll Club」はオリジナルLP収録のヴァージョンに戻されている。

CD2枚目は「Love Comes In Spurts」や「Blank Generation」、「Whow Says?」の別ヴァージョンや、エレクトリック・レディ・スタジオで録音されたアウトテイクの「You Gatta Lose」(以前オムニバス『The Sire Machine Turns You Up』に収録されていた)、バンドとしては公式デビュー・ライヴとなる1976年11月16日CBGBでのライヴ2曲、1977年のCBGBでのライヴ、1976年のオークレコード・リリースEPから「Another World」、2000年のオリジナル・ヴォイドイズ復活リリース「Oh」、サイアー・レコードの1977年ラジオ・スポットCMを収録している。

パッケージはデジパックだが、ジャケットはオリジナル・アートワークが使用されて、24ページのブックレットが付属している。ブックレットにはヘルのコメント、ヘルとアイヴァン・ジュリアンの対談、メンバーのレアな写真、「Blank Generation」の草案歌詞が書かれたヘルのノートや、当初計画されていたジャケットもあり興味深い(1990年のCD化の際ブックレットの裏に使用されていた、4人がにらみを利かせている写真がフロントに使われている)。この計画ジャケット(printer's proof for originally planed version of Blank Generation)の曲順は下記の通り。
side one
1.Love Comes In Spurts
2.Liars Beware
3.New Pleasure
4.I'm Your Man
5.Down At The Rock And Roll Club
6.You Gotta Lose
side two
1.Blank Generation
2.The Plan
3.Another World
4.All The Way

これ見ると1990年に『ブランク・ジェネレイション』がCD化された時のボーナス・トラックとして収録された「I'm Your Man」と「All The Way」(フランク・シナトラのカヴァー)、今回のリイシューで2枚目のCDに収録されているスタジオ・アウトテイク「You Gotta Lose」がクレジットされている。これはこれでいい曲順じゃないの。「I'm Your Man」や「You Gotta Lose」の位置なんかすごくいいと思う。ただ今回の40周年記念盤には「I'm Your Man」と「All The Way」は未収録。

前にRichard Hell『GO NOW』の記事で書いたけど、リチャード・ヘルのアルバムは最初に聴いたのがセカンドの『ディステニー・ストリート』で、その後カセットリリースの『R.I.P』だったかなぁ。どちらも友人に借りて聴いた。ファーストアルバムの 『ブランク・ジェネレイション』は1990年のリイシューまで聴いたことがなかった。このリイシュー盤のジャケットが今一つなぼんやりしたものだったから、なんか印象がねぇ…。やっぱりこの“YOU MAKE ME _ ”と書かれた胸をガバっとはだけているデンジャラスなオリジナル・アートワーク、B面が「Blank Generation」で始まる10曲入りオリジナルLP仕様っていうのは代えがたいものがあるんじゃないか。今回のリイシューを機に愛聴しますよ。
さて取り上げた曲「Blank Generation」だが、このリイシューに付属しているブックレットを読むと(もちろん英語なので難儀だが…)トム・ヴァーレインが持っていたというボブ・マクファデン(BOB McFADDEN & DOR)の7インチ「The Mummy c/w The Beat Generation」(1959年)のB面曲をもとに、1973年にリチャード・ヘルが作ったという。この曲に元歌があったというのはわりと有名で、私は雑誌DIGパンク特集(No.10)で湯浅学がリチャード・ヘルの紹介記事で “「The Beat Generaton」の替え歌”と書いていたのを読んでいたが、その頃聴いたわけじゃなく今回初めてYouTubeで「The Beat Generaton」を聴いてみた(今は便利だね…)。 “I belong to the…”という部分はそのまま、曲調は確かにそっくり。

付属ブックレットによればヘルは、この曲は世代交代の曲(generational rally tune)であるとしている。この曲は、新しい世代の誕生ともいえる歌詞で始まり、2番では生まれながらの規格外を伝えてもいるようだ。

“I was saying let me out of here before I was even born”
“俺は生まれる前からここから出してくれって言ってた”
“The nurse adjusted her garters as I breathed my first...
 The doctor grabbed my throat and yelled, "God's consolation prize!"”
“俺が最初の呼吸をした時、ナースはガーターを直してた
 ドクターは俺を取り上げて叫んだ「神の残念賞だ!」”

そして自分達のジェネレイションのステイトメント。
 “I belong to the blank generation and
 I can take it or leave it each time
 I belong to the _____ generation but
 I can take it or leave it each time”
 “俺は空白の世代に属している、だからその時々で取るか取らないか決めるのさ
 俺は__の世代に属している、だけどその時々で取るか取らないか決めるのさ”

1950年代のビートジェネレイション、1960年代からのヒッピー/フラワーチルドレン、そして1973年にヘルは「Blank Generation」を書き上げ、俺はどこにも属していない空白の世代だ、とステイトメントしたのだ。

ヴォイドイズというバンド名の“VOID”も空の、を意味し、ファーストアルバムのジャケットでも自分の胸に“YOU MAKE ME __”と書いて空白を投げかけた。その“空白”について、空虚とか虚無とかしらけとかいう意味で受け取ることもできると思うが、ヘルはもっと前向きな・積極的な意味合いで使用しているようだ。

雑誌DIGのパンク・スペシャル(No.30)に水上はるこによるリチャード・ヘルのインタビューが再掲載(もとは雑誌JAM1979年4月号掲載)されているが、 そこでヘルは、
“ヴォイドもブランクも、空白とか空間とかいう意味と同時に<無限の可能性を秘めている>ことも意味しているんだ”
“<ブランク・ジェネレイション>は、自分のジェネレイションのロックを書きたいと思っていた時に浮かんできたんだ”
と語っている。

また、評論家にファースト・アルバム『Blank Generation』が虚無的で自己中心的(nihilistic and solipsistic)と評価されたことに、自己中心的ではあるが虚無的な意図は無い、と今回の40周年記念盤ブックレットに記している(と思う…私の読解力では…)。

さて、1973年に書かれた「Blank Generation」だが、リチャード・ヘルがテレヴィジョンに在籍していた時の「Blank Generation」が聴けるのが、2004年リリースのリチャード・ヘルのアンソロジー『Spurts: The Richard Hell Story』に収録された1974年3月CBGBでのライヴで、ヴァーレインとリチャード・ロイドのエキサイティングなギターの絡みが聴ける。テレヴィジョン脱退後にヘルはニューヨーク・ドールズを抜けたジョニー・サンダースらとハートブレイカーズを結成、1975年のライヴを収録した『What Goes Around』や1976年のライヴを収録した『Live AT Mothers』といったハートブレイカーズのライヴ盤で 「Blank Generation」の演奏が聴ける。 ハートブレイカーズでは“ウー・ウー・ウー”というハーモニーが付け加えられた(ジョニー・サンダースの提案だという)。 ハートブレイカーズ脱退後、リチャード・ヘル名義(メンバーはファースト・アルバム『Blank Generation』と同じ)で1976年にオークレコードから3曲入りEP 「Another World c/w Blank Generation / You Gotta Lose」をリリースした。このEPではファースト・アルバムのヴァージョンよりややスローなプリミティヴでザラついた感触の「Blank Generation」が聴ける。

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