映画・石井岳龍監督『 パンク侍、斬られて候』
町田康の原作小説は文庫化された時に読んで、これが書ける町田康はすげぇ、やっぱり才能ある、それまでの町田康の最高傑作だ!と思ったものだ。なかなかボリュームのある小説だが、これが映画化されるとは(しかも実写で)まったく想像できなかった。
しかし、石井岳龍は2004年に小説が刊行された際に読んで映画化を考え始めたという…恐るべし。だが技術・資金面で企画は難航、頓挫する。時は流れ2015年、石井岳龍監督の『ソレダケ』を観た伊藤和弘プロデューサーの助力もあり再び企画が動き出し、映画化実現へ大きく動き出す。町田康は映画化を快諾、宮藤官九郎が脚本に起用された。最初は2時間尺の配信コンテンツとしてdTVで配信する予定であった企画は全国映画館で公開される映画となった。2016年の冬には初稿が完成し、2017年6月クランクイン、8月末にクランクアップ、ポストプロダクションを経て遂に映画は完成、2018年6月30日公開となった。
これを書いているのは7月1日だが、昨日、地元田舎の映画館で初日初回で観に行きましたよ、 えぇ、なにしろ石井・ex聰亙・岳龍の新作映画を近所で観られるんだから。
で、感想なんだけど、まだ公開されたばかりで内容細かく書くのもつまらんし、後日機会があれば…。
石井監督の持ち味のひとつであるダークな部分は抑えられ、やや脚本の宮藤官九郎側に振れているような気がするが、格闘シーンのスピード感、腹ふり党のモブシーンはさすがの迫力。個人的には納得の出来。
主人公は綾野剛ってことになっているが、登場人物はいずれもクセ者ばかり、豊川悦司(只今朝ドラ出演中)の演技には感嘆するところあり、國村隼しかり、浅野忠信しかり、そして幕暮孫兵衛こと染谷将太が素晴らしい。もう出演者誰もが快演・怪演なのだが、これまた特筆すべきは北川景子の演技で感動ものです。
主題歌はセックス・ピストルズの「アナーキー・イン・ザ・UK」。
なぜ日本の映画のそれも時代劇にこの曲が、と気になる向きもあるとは思う。
なぜ日本の映画のそれも時代劇にこの曲が、と気になる向きもあるとは思う。
かつて原作者の町田康(当時町蔵)が主演し、山本政志が監督した『熊楠』という映画があった。『熊楠』は資金難のため製作が中断し未完となってしまったが、町田が演じた学者、南方熊楠は、古今東西、地域・時代・学問・雑談を分け隔てなく全てを対等に縦横無尽に考察し世界を捉えようとした人物といわれている。町田が描いた小説『パンク侍、斬られて候』も時代を縦横無尽に捉え、その思考力と観察眼は熊楠に通じるものがあるのではないか、と思う。
そういった意味では自在に時空を駆け巡る『パンク侍、斬られて候』という作品にロンドン・オリジナルパンクの楽曲が使われるのもあながち的外れではない 。『パンク侍、斬られて候』のコピーには“世紀のハッタリ合戦”とあるが、セックス・ピストルズのマネージャーだったマルコム・マクラーレンが言っていた“キャッシュ・フロム・カオス”ならぬ “騒動起して私利私欲”な面々が映画では描かれているから、ピストルズの曲を使うっていうのはむしろハマってるとも考えられる。
右上のジャケ写は1992年にヴァージンからリイシューされたCDシングル。オリジナルリリース時(1976年)は7インチ「Anarchy In The UK c/w I Wanna Be Me」だったが、この1992年のリイシューのCDシングルにはこの2曲に「Anarchy In The UK(Demo Version)」が追加されている。
Right! Now
ha ha ha ha ha…
宇宙が砕けますよ
参考:『パンク侍、斬られて候』劇場パンフレット、『パンク侍、斬られて候』公式HP、NHK ETVの番組・先人たちの底力 知恵泉「この世のすべてが知りたい! 南方熊楠 超人の作り方」