My Wandering MUSIC History Vol.83 THE ROOSTERZ『GOOD DREAMS』
1983年12月31日に池袋・西武劇場でおこなわれた年越しライヴ “第11回ニューイヤーロックフェスティバル”に出演、ルースターズは31日の午後10時過ぎに登場した(このライヴの中から「Sad Song」が1984年1月17日にTBSでTV放送されている)。明けた1984年1月1日にはシングル「Sad Song c/w Heart's Edge」をリリースし、1月1日、2日には新宿ロフトで2daysライヴと忙しく年を越したルースターズだったが、このロフト2days後、なんとベースの井上富雄がバンドを脱退してしまう。後に井上は脱退の原因を “リーダー(大江)が倒れて求心力がなくなったのが原因で音楽的対立はなかった”とインタビューで語っている。
元日にシングルをリリースし正月に2日間のライヴをブッキングするという “その年を迎えた” 意気込みを感じさせたルースターズだったが、井上の脱退により2ヶ月半程ライヴ活動を停止している。しかしライヴ・スケジュールのキャンセルが無かったようなので、このライヴで井上が脱退することは以前から決まっていたのだろう。池畑脱退後しばらくして井上はバンドを離れることを決意、周囲に伝えていたと思われる。
井上の脱退のアナウンスはどこで見聞きしたのか覚えていないが、おそらく雑誌で読んだのかな…。しばらくしてオーディションにより当時19歳の柞山一彦が加入(井上もデビュー時19歳だったな…)、プロの経験はなくテクニックよりも若さとルックスを買われてということだった。なんでも作山自身が軽い気持ちで電話をかけたところ、翌日には花田と安藤に会って、後日柞山のバンド(ルースターズのコピーをしていたバンドらしい)のライヴを花田と安藤がライヴハウス(ACBらしい)へ見に行き、他にもオーディションで何人か一緒にやったが、最終的に柞山に決めた、ということだ。
これだけキャリアのあるバンドが、経験のないプレイヤーを加入させるというのも、思い切った決断というか冒険というかパンクなバンド姿勢ではある。メンバーの出入りが激しかったこの時期、それほど自己主張のないメンバーを、という配慮もあったのかなぁ。まぁこの時期邦楽・洋楽問わず様々なパンクバンド、ポスト・パンクバンド、ニューウェイヴ・バンドが楽器を手にしたことのない素人から尖鋭的なプレイヤーに変わっていったことを見聴きしていたが…。柞山は当初ライヴのサポート・メンバーとして加入したが、後に正式メンバーとなる。
1984年4月ザ・ルースターズ、5作目のアルバムがリリースされる。
グループ名の英語表記が変更になり、ROOSTERSからROOSTERZへ。大江のアイディアだという。アルバム・タイトルは『グッド・ドリームス』。
グループ名の英語表記が変更になり、ROOSTERSからROOSTERZへ。大江のアイディアだという。アルバム・タイトルは『グッド・ドリームス』。
だがジャケットはブラックに縁どられ、砕けて飛び散ったガラスと青い粉末の写真が使われている。およそ“素敵な夢”とは程遠いアート・ワーク。音を聴く前からあらかじめ “その夢が叶う事は無いんですよ” と見せられているようだ。美しくも禍々しさをも感じさせる、このアルバム・カヴァー・コンセプトは柏木省三、アート・ディレクションは鏑木朋音によるもの。これまでルースターズのアルバムのフロント・ジャケットにはメンバーのポートレイトが使われていたが、メンバーが登場しない初めてのアルバムとなった。この青い粉末、想像するに、ベロ藍(ベルリン藍)といわれ広重や北斎の浮世絵にも使われた顔料の紺青を写したものでないかと思うのだが…。
収録曲は8曲で、新曲が4曲、既発曲のリミックス・ヴァージョンが4曲となっている。既に脱退しているが井上富雄が「Drive All Night (Club-Mix)」を除く全ての曲でベースを弾いている。前作『DIS.』から6ヶ月で新作リリースとは随分ペースが早い。
新曲から紹介すると、
「ゴミ」は12インチ『ニュールンベルグでささやいて』録音時(1982年9月)の未発表曲。
この曲をアルバムのオープニングにするとは驚きだったね。ファンクな曲調とともにゴミを並べたナンセンスな歌詞にはルースターズというか大江のただならぬセンスを感じさせるものだった。紙クズ、煙草の灰、ミゾのほこり(アナログだったからね)、抜けた髪の毛、なんかはまぁわかるが、糞尿まででてくるとは。それらを “ダストシュートの放り込んで ” で締めくくるのも気が利いている。リズムを追求した『ニュールンベルグ~』セッション時の録音なだけに、もう少し立体的なミックスにしても良かったと思うのだが。
「Good Dreams」は井上の流れるようなベースライン、下山の凝ったバッキング・フレーズ、安藤のニューウェイヴでエレポップ的ともいえるDX-7のフレーズが絡み合うイントロで始まる、ポップで高揚感のあるナンバー。ハッピーでもファンタスティックでもないこの世界で、夜を素敵に、街を美しくする魔法のようなグッド・ドリームを探す…。大江の完璧に推敲された歌詞も素晴らしい。
黄色人種による日本語にのせたリズム&ブルースの追求からカラフルにポップにヴァリエーションを広げつつ、海外のニューウェイヴ・ムーブメントにも呼応、人間の内面/精神世界をみつめたダークなサウンド、エクスペリメンタル、パーカッシブな民族音楽、リリカルなアコースティック・サウンドを貪欲に取り入れ、これまでさまざまに変化して多面的になったルースターズサウンドが美しくポップに結晶化した名曲。
「Hard Rain」はイントロのギターのカッティングが印象的。作曲は大江と安藤広一。大江が東北沢に住んでいた頃に作った曲で、豪雨が降り注ぐ中、タクシーに乗って急いだ風景、当時大江の付き合っていたガールフレンドのことを歌っている、と大江が語り下ろした『words for a book』の中に記載がある。
ライヴではエンディングにスタジオ・ヴァージョンには無いパートが付け加えられていて “Hard rain beat up here”とも“Hard rain beat at here”とも聴こえる歌詞を繰り返し歌っている。このエンディングが付け加えられたライヴ・ヴァージョン、公式には花田期1985年のライヴ・ヴァージョンがボックス・セット『Virus Security』に収録されているのみだが、これを聴くとまた違って歌っているように聴こえるんだよな…。
「All Alone」はサンハウスのカヴァーでオリジナルはサンハウスのセカンド・アルバム『仁輪加』(1976年)に収録されている「ふっと一息」。ピュアでペシミスティックな歌詞は柴山俊之が時々見せる一面だ。1984年当時サンハウスのオリジナル・アルバムは入手困難で、サンハウスのオリジナルを聴いたのは随分後になってからだが、かなりアレンジが違うなと思った。だけど1990年頃リリースされたサンハウスの未発表音源集『ハウス・レコーデッド』に収録されていた「ふっと一息」のライヴ・ヴァージョンを聴いて、ルースターズはライヴ・ヴァージョンを元にしていることが判明。当時は知らなかったが前作『DIS.』レコーディング時のアウトテイク。
既発4曲はリミックスされて収録。
新曲と共に既発曲を収録することに関しては安藤広一がリリース当時、雑誌「DOLL」のインタビューで、“ ステージで「CMC」や「ニュールンベルグ~」などが重要なレパートリーになっている事。 既にレコードになってしまった曲もどんどん変化して、ふくらんできている事。 これらの考えで、今の段階では、こうした形でレコードを出した方がいいという判断からです。 ベーシック・トラックはそのまま使って、歌は全部入れ換えました ” と答えている。
「Drive All Night」の花田のヴォーカルはそのままと思うが…。
「カレドニア」のリミックス・ヴァージョンは、イントロがカット、ギターはソロ部分を除き極端に小さくミックス、ドラムスはオミットされパーカッションのみ、乱調気味のピアノは左右に振り分け更に不気味に…と一番過激なリミックスに仕上がっている。ヴォーカルは差し変わっている。
「ニュールンベルグ」は“Health-Mix”と題されたリミックス・ヴァージョン。パーカッシブなドラムスはセンターに集められ、下山のノイジーなギターが追加、大江のヴォーカルは差し替えられている。「CMC」は“Health-Mix”と題されたリミックス・ヴァージョン。大江のヴォーカルは差し替えられ、エフェクト音やフィードバックが強調されて、エンディングのギターも若干違う。「Drive All Night」は“Club-Mix”と題されたリミックス・ヴァージョン。ベースは下山が弾いたものに差し変わり、下山のギターが大きくフューチャーされたものに。スネアは固くタイトな音から響きのある音に変わり、サックスはオミットされた。
新曲4曲で12インチ・シングル/ミニアルバムとしてリリースも可能だったと思うが、ここは下山淳の参加により変化したアレンジで 「ニュールンベルグ」、「CMC」、「Drive All Night」の “下山参加ヴァージョン” を収録し、1984年4月から始まるツアー “THE ROOSTERZ '84Tour -searcin' for GOOD DREAMS-”に向けてリスナーに届けるアルバムとしたのだろう。
この頃のライヴでは学園祭にいったな。
5月27日・東京大学「ロックフェス東大'84」
昼間の野外ステージ。大江はテレキャスターを弾いて歌っていた。ライヴで「ハードレイン」を聴いたのは、私はこの時が初めてで、後半のレコードには無いパートが凄く印象に残った覚えがある。ルースターズのライヴの後、他のステージを見に来たらしい安藤、灘友、柞山の三人を見つけ写真を撮らせてもらった。
フライヤー
チケット
6月24日・駒沢大学「NEW DAYS NEWZ」
ルースターズは急遽出演が決定した為フライヤーに名前が載っていない。この時のオープニングSEが映画『モスラ対ゴジラ』のサウンドトラック(伊福部昭)で、曲にのせて柏木省三と思われる声で “ワ~ォ!レディース・アンド・ジェントルメン、 トゥデイ・スペシャル・ゲスト、ザ・ルースターズ!”とオープニングMCがあったのだが、暗闇の中で聞いたそれが非常にカッコ良かった。続いて演奏されたのが「Je Suis Le Vent」。ライヴ後半、珍しく「カレドニア」も演奏した。
フライヤー
チケット
ルースターズは“THE ROOSTERZ '84Tour -searcin' for GOOD DREAMS-”のツアー後、7月15日に赤坂ラフォーレミュージアムでビデオシューティング・ライヴ、8月4日の日比谷野外音楽堂・アトミック・カフェ・フェスティヴァルを経て、夏休みの終りに前代未聞の新宿ロフト7日間連続ライヴ“Person To Person”を開催。それはまた後ほど…。
参考文献:ボックスセット『Virus Security』ブックレット、ビデオ『大江慎也・A TRUE STORY』ブックレット、FOOL'S MATE October 1985 No.49、 『ロック画報 17・特集めんたいビート』、レコード・コレクターズ 1999年5月号