遠藤ミチロウ著『嫌ダッと言っても愛してやるさ!』

2019年10月筑摩書房(ちくま文庫)より出版

遠藤ミチロウのファースト・エッセイ『嫌ダッと言っても愛してやるさ!』が文庫となって再刊された。今回が3回目の再刊となる。
これまでの出版経歴は、
1982年にダイナミックセラーズから出版されたオリジナル版
2003年にマガジン・ファイブから出版されたDVD付きの2003リミックス版
2007年に2003リミックス版からDVDを無くして出版された2007リミックス新装版
となっているが、私はダイナミックセラーズ版と2003リミックス版を持っているので、どうしようかなぁーと思っていたが本屋で見かけそのままレジへ…。

今回のちくま文庫版は下記の章から構成されている。
第1章【1980年代初期】「玉ネギ病のあやしい幻覚」
第2章【1980 - 1985】「嫌ダッと言っても愛してやるさ!」
第3章【1983.7.20】「カルチャーの瓦礫の中で」
第4章【2000 - 2003】「TALK ABOUT THE COMICS」
第5章【歌詞と詩と未収録エッセイ】

第1章は、 1982年〜1983年にかけて雑誌に発表したエッセイを集めたもので、2003リミックス版で追加された。なかでも雑誌宝島1982年11月号に掲載されていたエッセイ「死にたくない!」は、“ 北へ帰る「演歌」の時代は終わった。しかしそろそろ、北からやって来る「スターリン」の時代は「北方領土」より夢がないのだよ”という名フレーズを含む、東北・福島という出自を自虐的、差別的、肯定的に扱ったもので、ミチロウの東北への愛憎が感じられる必読のエッセイ。

第2章は、オリジナル・ダイナミックスセラーズ版に収録されていたエッセイ集。ZOO、DOLL、ロッキンオンといった音楽雑誌に掲載されたエッセイのためか、ピストルズーPIL、ストーンズ、ジャックス、宮沢正一、自主レーベル、ROCK SONGについて等の音楽的な主題を扱ったものが多い。雑誌ZOO1980年2月号に掲載されていたエッセイ「DISCOMMUNICATION FOR FUTURE!」には “ マスコミの発達・情報の過剰によって何かを表現しようとしたとたん、いやがうえでもたくさんの人々と強制的にコミュニケートさせられてしまう”
となにやら表現ということについて、2019年の現代にもぴったり当てはまるような記述があるし、さらに “ そんな社会の中にいて俺達がそれぞれ提示できるのは(ロックであっても何であってもいい)ディスコミニュニケーションなのだ。そう、つながり得ないことの提示、現在的意味。そこからしか何も始まらない ”  と、通じないことを徹底して実践していた当時のザ・スターリン/遠藤ミチロウの音楽的な背景と戦略、その思想の一端を垣間見ることができるものだ。

第3章は, 1984年ロッキンオン社から刊行された対談集『バターになりたい』に収録されていた吉本隆明との対談で、2003リミックス版で追加。
アルバム『虫』をリリースし、後楽園ホールでのライヴ後という時期のもの。やがて訪れる弾き語りアコースティック・ソロ・ライヴを予見するような締めくくりになっているのが興味深い。

第4章は、1999年〜2003年に書かれた、ジョージ秋山、平口広美、笠間しろうのコミック本の解説を集めたもので、2007リミックス新装版で追加。私はこの文庫版で初めて読んだ。 第4章のあとには2003リミックス版、2007リミックス新装版、それぞれのあとがきを収録。

第5章は「ロマンチスト」、「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」、「父よ、あなたは偉かった」等の14の歌詞と、1994年思潮社から刊行された『真っ赤な死臭』に収録されていた「十九才」、「トコロテンノウマイミセ」、「ダーク・ランド」という3篇の詩、
遠藤ミチロウFUNCLUB通信に掲載されていた2本のエッセイ「父が死んだ」と「パティー・スミスがやって来た」を、いずれも今回のちくま文庫版で追加。なかでも父親の死とその葬儀をミチロウの飾りのない素の言葉で紡いだ「父が死んだ」が印象に残る。

さらに遠藤ミチロウバイオグラフィーと石井岳龍の解説を新たに追加、石垣章と地引雄一の写真も掲載されている。バイオグラフィーは遠藤ミチロウオフィスによる書き下ろしで、先日発売された『ユリイカ 総特集 遠藤ミチロウ 1950-2019』に掲載されていた年表(いぬん堂作成)と通じるものがあるが、リリース関係やライブ関係はあっさりとした記述になり、1966年(16歳)〜1973年(23歳)の項目が追加されたものになっている。

『嫌ダッと言っても愛してやるさ!』は再刊の度に追加と削除がおこなわれているのでややこしい。写真と活字の入り混じったヴィジュアル・ブックという感じだったオリジナルのダイナミックセラーズ版。 割れた腹筋とライダースジャケットというミチロウの表紙は強いインパクトがある。このオリジナル版に収録されていた石井聰亙との対談、藤原新也との対談は再刊版には収録されていない(2007リミックス新装版は持っていないので確認してないけど)。

ダイナミックセラーズ版に未収録のエッセイを追加+ミチロウ漫画+ミチロウへのコメント集+DVDと立体的に構成したのが2003リミックス版で、ミチロウへのコメント集「TALK ABOUT THE STALIN & MICHIRO」には大槻ケンヂ、石井聰亙、渋谷陽一らとともにモーリー・ロバートソンもコメントを寄せていて面白かったが、今回の文庫版には収録されなかった。

しかし、なにはともあれこうして遠藤ミチロウの文章が手軽に入手できるのは嬉しいし、長く読み続けられるようにしておいて欲しいものだ。

このブログの人気の投稿

TH eROCKERS「可愛いあの娘」

NICO『LIVE IN DENMARK』

ザ・ルースターズ「PLAYLIST from ARTISTS」