『シンコー・ミュージック・ムック THE CLASH LONDON CALLING』
ザ・クラッシュのアルバム『ロンドン・コーリング』リリースから40年(!)という節目でリリースされた『ロンドン・コーリング40周年記念盤』にあわせ、2019年12月にシンコーミュージックから新たなムック本が発売された。
シンコーからは、ジョー訃報時、シングルボックス発売時、DVD『THE RISE AND FALL OF THE CLASH』発売時、12枚組ボックスセット『サウンド・システム』発売時に続き、5冊目のムックとなる。
『ロンドン・コーリング40周年記念盤』は、日本ではソニーから2019年11月15日、限定スクラップブック仕様CD、クリア・ヴァイナル仕様の2LP、紙ジャケ仕様の2CD、と3種類でリリースされたが、私はオリジナル日本盤LP、1枚組CD、25周年記念盤CDとあるし、楽曲としての「London Calling」はアナログ・シングルBOX(1980年)、CDシングルBOX(2006年)とあれば、もう音盤はいいかなーと購入は見合わせた。
スクラップブックの内容は気になるけど、あまりに高価(6,500+税)だし。日本盤はクリア・ヴァイナルにポスター付き仕様のアナログも欲しいなぁと思わせるけど、これも高価(5,800+税)…。
1979年リリース当時の“ ファンのためにレコードの価格をできるだけ安くしたい ”、“『ロンドン・コーリング』は2LPだけど1枚の価格で売りたいんだ ” と言ってCBSと交渉しイギリスでは5ポンド(当時のレートで2,700円位)販売され、日本ではゲートフォールド・ジャケットで3,500円と2枚組としては低価格だった(初回のみペニー・スミス撮影のポスター付き)。そんなリスナーを思い、大切にしてくれる時代は遥か彼方40年前の「いい話」だ…。
だけど、つい買ってしまうムック。さらっと読めるしね。今回は小型で軽く手に取りやすい作り。
内容はというと、ロンドンで行われた展覧会「The Clash : London Calling」の模様をロミ・モリによる紹介でカラー3ページ、定番のクラッシュ・ヒストリー、メンバー紹介、『ロンドン・コーリング』アルバム全曲解説、前後のシングル盤解説、カヴァー・ヴァージョン紹介、当時の英国パンク・シーン解説等はこのムックの監修者・本田隆によるテキスト。
クリス・ボーンによる『ロンドン・コーリング』リリース直後のジョー・ストラマー発掘インタビュー、ここでもジョーはアルバムの価格についてCBSに同意させたことを誇らしげに語っている。この他に、EPICソニーの元担当ディレクターの野中規雄、ミュージックライフ元編集長の東郷かおる子、『ロンドン・コーリング』製作時に立ち会っていたカメラマン浅沼ワタルへ新しくおこなったインタビューを掲載。
さらにクラッシュのロード・マネージャーをしていたジョニー・グリーンや、DJでもあり当時のパンクシーンを映像で記録していたドン・レッツ、 ポール・シムノンと恋仲にあったアメリカ人ヴォーカリストのパール・ハーバー、とバンドに最も近かった3人のインタビューも新規におこなって、各人のバックボーンやクラッシュと過ごした日々、当時のパンク・ロック・シーンについてなどをそれぞれが語っている。
日本での受け止め方として、町田康と高木完へのインタビューも掲載しておりクラッシュへの思いを語っている。町田は当時冷ややかに見ていたこと、高木はクラブ/ディスコ/ダンス・シーンへの影響について熱く語っている。町田康がクラッシュについてのインタビューに答えるのも意外と思えるが、このあたりが今回ムックの読みどころだろう。インタビュアーはいずれも本田隆。
まぁどのインタビューも結論を言えば『ロンドン・コーリング』は傑作だ、という内容になっている。それは疑う余地もなく、歴史的評価も定まっているから当然なのだが…。
いくつかのインタビューとレポートは以前にシンコーから発売されたムックに掲載されていたものもあり『ロンドン・コーリング』製作中のミュージックライフ1979年10月の藤内由美子によるものと、『ロンドン・コーリング』リリース後のミュージック・ライフ1980年4月の東郷かおる子によるものは、2013年の『CROSSBEAT Special Edition THE CLASH』に再掲されたものと同じ。ジャム1980年4月の久坂玄(野中規雄)によるツアー・レポートは『THE DIG Tribute Edition JOE STRUMMER 1952-2002』に再掲されたものと同じだ。
どうせ『ロンドン・コーリング』にフォーカスするなら、2006年に出版された『THE DIG Special Edition THE CLASH』に掲載の、ジャケット写真を撮影したペニー・スミスへのインタビューと、河添剛の『ロンドン・コーリング』ジャケットについての考察を再掲してもよかったのでは。
『ロンドン・コーリング40周年記念盤』については荒野政寿によるほぼ3ページ分の解説と少なめ。そういえばオリジナル・アナログの「Train In Vain」の曲名クレジットは、D面のランアウトに「TRACK 5 IS TRAIN IN VAIN」と刻まれていたが、今回の復刻アナログでも再現されているのかな。CDやアナログ盤に付属している歌詞の訳は新しくなっているのだろうか。