VARIOUS ARTISTS『都市通信』

2020年1月29日、カムイレコード/海賊艇Kからリリースのオムニバス・アルバム。

音盤を入手してその音を聴くことはないだろうと思っていたオムニバス・アルバム『都市通信』がCD再発された。

オリジナル・アナログ盤LPは、1980年2月に1,900円という低価格でカムイレコード/海賊艇Kからリリースされたが、やがて通信販売で代金を送ったもののレコードが発送されず、海賊艇Kの代表者が行方をくらますという事態になり、その年のうちに『都市通信』はもっとも入手困難な幻の音盤となってしまう。海賊艇Kはそのまま消滅。音楽を広くリスナーに届けようとしていた収録バンドにとっても残念なことだったと思う。

ミニコミ「Change 2000」Vol.12に掲載された小西昌幸の海賊艇K糾弾記事を読んでいたり、地引雄一著『ストリート・キングダム』に海賊艇Kの活動と消滅についての記載を読んだりしていたから、去年10月にネット上にアップされた、再発を知らせるニュース、海賊艇K代表の謝罪文を読んだ時は驚きだった… 日本の自主制作盤を振り返る時に、いわくつきとして紹介される不幸なレコードの40年後にして驚きの結末…すぐに予約した。

収録されているのは、シンクロナイズ、美れい、NON BAND、螺旋の4バンド。
シンクロナイズのサウンドは初めて聴く。エレポップ的なアレンジ、ベースのフレーズや華やかなシンセが耳に残るが、歌詞やコアな部分にはストレートでストイックな感じをうけるし、ユーモラスな印象もある。「XYZ」、「成分」、「記念碑」の3曲を収録。

岩本きよあき(清顕)と実方ひとみの2人組+リズムボックスという美れいも初めて聴く。楽器のアンサンブルが独特の雰囲気をもった「悲しい町で」、インストの「密林の王者」、躍動する炎を歌う「うつくしく」、シンプルだけどポエティックでユニークな「けだもの」、30秒に満たない短いインスト「夜遅く」、いずれもハンドメイドな5曲を収録。

結成してまもなくのNON BAND、ノンとドラムのケイコ、ギターに野本健司が参加していた時期の録音だ。プリミティヴな衝動と演奏の「Vibration Army」と、都市の孤独をスライスカットしたような「Home」の2曲を収録。

螺旋はシティロッカーからリリースされていた紅蜥蜴のアルバム『けしの華』に付属していたフレキシに収録されていた楽曲を聴いたことがあったが、まとめて聴くのは初めてだ。後にリザードに参加する北川哲生のギターは独創的なフレーズでバッキングワークが特に耳に残る。TELEVISONからの影響なんかもあるんじゃないかと個人的に思うが、所謂ネオ・サイケデリック的なフィーリングをいち早く取り入れていたのでは。浮遊感のあるギターがかっこいい「ライオン讃歌」、「地獄に落ちた勇者共」はレゲエ的なアレンジもあり歌詞も面白い。アヴァンギャルドかつポップな印象の「凍った身体」もいい。他に「明日のバラドックス」の5曲を収録。

このアルバムの録音は螺旋のギタリスト北川の借りていたマンションの一室を改造したスタジオでおこなわれたという。ブックレットにはRECORDING STUDIO 螺旋館とクレジットされている。

再発されたCDは帯なし、シンプルなグリーンのジャケットに、ライナーノーツはエレクトレコード主宰のMr.エレクト、DOLL増刊『パンク天国4』や雑誌DOLL No.246の東京ロッカーズ特集で『都市通信』の内容の良さを書いていた原爆オナニーズのTAYLOW、かつて海賊艇Kの告発記事を書いていた小西昌幸、アルバム制作時に機材オペレーターをしていたという野々村文宏の4名が新たに執筆。

オリジナルに添付されていたA5サイズの歌詞や写真を掲載した20ページのブックレットが付属している。

『都市通信』に参加していたNON BAND、ノンが2019年10月6日付けブログに
「海賊艇K」より
としてCD再発について記載している。

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