忌野清志郎『COMPILED EPLP -ALL TIME SINGLE COLLECTION-』

2020年6月24日、ユニバーサルからリリースのコンピレーション・アルバム。

忌野清志郎(RCサクセション)のデビュー・シングル発売から50周年を記念したプロジェクトの第二弾で、RC以外で忌野清志郎がリリースしたソロ、ユニット、バンドのシングルを3CDにコンパイルしてリリースされた。

1982年2月14日に清志郎が坂本龍一と組んでリリースした「い・け・な・いルージュマジック c/w 明・る・い・よ」から、清志郎逝去(2009年5月2日)後の2009年6月17日にリリースされたMaxi CD「Oh! RADIO c/w 激しい雨」まで、21枚のシングル(配信含む)とカップリング曲(一部除く)を年代順に収録している。

何をセレクトしコンパイルするか。清志郎の長い活動経歴中、音源を複数のレコード会社からリリースしているから、ここは大きな問題となるが、かつてロンドン・レコード、東芝EMI、ポリドール、ユニバーサルからリリースされていた清志郎関連のシングル音源は現行ユニバーサルへ移行しているので、今回の3枚組で、清志郎がヴォーカリストとして活動したソロ、ユニット、バンドのシングルを(重要な活動のタイマーズが含まれていないが)ほぼ流れ的も網羅できていると思う。映画『不確かなメロディー』のサウンド・トラックとして清志郎自身のインディ・レーベルSWIMからリリースしたラフィータフィーの4曲入り CD「水の泡」からは、ライヴ・テイクの2曲「お元気ですかマーコさん?」と「Sweet Lovin'」が収録されなかった(シングルなのかということもあるけど…オフィシャルHPではシングル扱い)。これだけまとまって清志郎のシングル曲とカップリング曲が聴けるのはとてもうれしい。これまでいろんなベスト盤が出てるけど、個人的にこれはベストだな〜。

DISC 1トップを飾るのはYMO活動中の坂本龍一と共作した「い・け・な・い ルージュマジック」で、資生堂1982年春のキャンペーンソングとしてCMで音楽が使用され、清志郎と坂本が生放送のTV歌番組に積極的に出演していたこともあり、この曲はお茶の間に浸透、オリコンチャートで1位となった。なんといってもプロモヴィデオが強力で、大量の万札、八つ墓村、棺桶と紅白幕、軍服、二人のディープキス等々を盛り込んだ内容は衝撃的だった。
楽曲は清志郎と坂本龍一の共作となっていて、坂本がドラムとベースも含めトラックを作成、メロディと作詞は清志郎という分担のようだ。ギターはチャボが弾いている。坂本によるとイメージ的にはT-REXがあったようで、確かにアレンジ的にもヴィジュアル的にもグラム/グリッターな感じは濃厚にある。
カップリング曲の「明・る・い・よ」は坂本が2〜3時間でちょこちょこっと作ったテクノっぽいダンストラックに、清志郎が言葉遊び即興的に歌詞をつけて完成させた。
このシングルの2曲は1992年にCDシングルとして再発されたり、1994年にリイシューされたRCのアルバム『シングル・マン』にボーナストラックとして収録されたり、「明・る・い・よ」がメンバー未公認盤に収録されていたり、「い・け・な・いルージュマジック」のみ幾つかのベスト盤に収録されていたが、今回このシングル集のトップを飾るに相応しく、収まるところにおさまった、あるべき場所に配置された感が非常にする。

続く「AROUND THE CORNER 曲がり角のところで」と「ちょっと待ってくれ(CHOPPED TOMATO PURÉE)」は、1987年2月25日に清志郎が発表した初めてのソロ・アルバム『RAZOR SHARP』に先行して2月4日にリリースされたシングルのAB面。アルバム『RAZOR SHARP』はロンドン録音で、清志郎が渡英したらそこにいたというミュージシャンのコーディネイトはカズ宇都宮によるということだ。
主なメンバーは、
ドラムス:トッパー・ヒードン、チャーリー・チャールズ
キーボード:ミッキー・ギャラガー
ベース:ノーマン・ワット・ロイ
ギター:ジョニー・タンブル
サックス:デイヴィー・ペイン

イアン・デューリーが率いていたブロックヘッズのメンバーを中心に、クラッシュを1982年に解雇され1985年にソロ・アルバムを発表していたトッパー・ヒードンがドラムスで参加している。 しかし、トッパーは他のメンバーにあまりうけがよくないということでブロックヘッズにも参加していたチャーリー・チャールズが3曲でドラムスを叩いている。
アルバムにも収録された「AROUND THE CORNER 曲がり角のところで」は、イントロのコーラスとギター、キーボードのアレンジがポップ!80'sでキュートな曲調。間奏のホーンが入ったところなんかギターポップといってもいいな。ドラムスはチャーリー・チャールズ。
「ちょっと待ってくれ(CHOPPED TOMATO PURÉE)」は、16ビートでメリハリの効いたドラミングにのって清志郎のヴォーカルもビシビシ、グルーヴィーにキマってる。ドラムスはトッパー・ヒードン。アルバム『RAZOR SHARP』には未収録だった。イギリス人には “みじん切りのトマトピューレ ”って聞こえる?

清志郎は『RAZOR SHARP』リリースに伴って、イギリスからレコーディング・メンバーを日本に呼び寄せ、KIYOSHIRO IMAWANO & THE RAZOR SHARPSとしてジャパンツアーをおこなう。メンバーはなにやらブツを所持していたことで来日出来なくなったトッパー・ヒードンにかわって、レコーディングにも参加していたチャーリー・チャールズがドラム、ベースはスケジュールのあわなかったノーマンに変わってマッドネスのマーク・ベッドフォードが来日、ライヴはレコーディングされ、ライヴ・アルバム『HAPPY HEADS』として1987年6月5日にリリースされている。その3ヶ月後、9月5日にリリースされたのがシングル「E-JAN c/w STAND BY ME」。
ライヴ・アルバムにも収録されている「E-JAN」だが、 シングルに収録されたのはスタジオ録音で、クレジットによるとドラムはトッパー、ベースはノーマンの演奏であることからアルバム『RAZOR SHARP』収録曲と同時期に録音されたトラックと思われる。カップリングの「STAND BY ME」はライヴ・ヴァージョンでライヴ・アルバム『HAPPY HEADS』から。
このDISC 1の1〜6までの流れ(清志郎のソロ初期)はとてもいい。

「E-JAN」(1987年)から次の「パパの歌」(1991年)まで4年の時間が経っているが、この間、RCの活動〜『カヴァーズ』発売騒動〜タイマーズの活動〜入籍・長男の誕生〜RC活動休止があり、清志郎にとっては大きな転機が訪れた期間でもあった。その後、糸井重里との共作「パパの歌 c/w 犬の子」でフツーに働いている人々の姿を肯定的に描いた曲を歌い、清志郎自身がパパになったこともあり、清志郎に父親・父性のイメージが加わる。

1992年には清志郎憧れのブッカー・T & THE MG'sとメンフィスで録音したアルバム『Memphis』からのカット「世間知らず c/w BOYS」をリリース、いつまでも引きこもっている若者を歌った「世間知らず」と、いつまでも甘えてらんねぞ「BOYS」の裏腹な2面性をパックした、このシングルもいい。「世間知らず」は清志郎が二十歳頃に書いた曲だという。こういう気持ちは今でも残っているな、とリリース時四十歳の清志郎が語っていた。

1991年4月に清志郎がかよっていた幼稚園でニーサンズとしてライヴをおこなってから、徐々にメンバーを補充、2・3'Sとしてパーマネントなバンドになった。2・3'Sとしては4枚のシングルをリリースしていて、再び糸井重里との共作「パパの手の歌 c/w カラスカラス」、アルバム『GO GO 2・3'S』に先行して「いつか観た映画みたいに c/w NEWSが知りたい」をリリース、 1993年1月20日にリリースした「お兄さん」は、2・3'Sに対するファンからの不評・苦情をまとめて歌詞にしており、お兄さん(ニーサンズ)の歌じゃ君はお気に召さない、と以前の清志郎のパブリック・イメージと2・3'Sを比較するファンたちをカントリー調の曲にのせて揶揄した。
カップリングは「あの娘の神様」で、清志郎のファンだった彼氏がRCのテープとか全部置いて新興宗教に入信したという女性ファンからの手紙をもとにしているという。
とすると、このシングルの2曲は清志郎への便りをもとに作られているのだからファンからの声を非常に大切にしたとも言える…。

1993年10月27日にリリースした「プライベート」のカップリング「恩赦」は、小林克也のアルバム『ます』への提供曲で、“ 皇太子さまがご結婚なさったから 犯罪者達に恩赦がある ” という歌い出しが強烈。そして、俺の心に恩赦を…と歌う。提供した時点での歌い出しは、“ 新しい時代が始まったから 犯罪者達に恩赦がある ” だった。

2・3'S活動停止後、ソロ名義で1994年5月11日にリリースしたドラマの主題歌「サラリーマン」。かつて “ 電車は動き出した 豚どもを乗せて ” と歌い、そこかしこでサラリーマンに辛辣な言葉を投げていた清志郎も、この曲では “ サラリーマンは毎朝 君の声におくられ 今では慣れた 満員の電車 ” とサラリーマンの日常によりそう歌詞を歌っている。録音は、G三宅伸治、B川上剛、D杉山章二丸、等と行われた。 

ナッシュビルで録音し1995年〜1996年にかけてリリースしたシングル3作「君にだけわかる言葉」、「Good Lovin'」、「世界中の人に自慢したいよ」とそのカップリングもまとまって聴ける。「世界中の人に自慢したいよ」のカップリング「マーマレイド・ソング」の作詞でクレジットされている百池万子、ディスクガイドの『地球音楽ライブラリー・忌野清志郎』には作詞・山口百恵と記載が…。

Little Screaming Revueでは2枚のシングルをリリース、ベースの藤井裕とドラムの富岡GRICO義広のグルーヴィーなリズムが大きな魅力のバンドだ。ソロ名義の「QTU」のカップリング曲「出発の時間」はカントリーな曲調でヘヴィな内容の歌詞。映画『不確かなメロディー』のサウンド・トラックでラフィータフィー名義の4曲入り缶ケース CDからの「水の泡」はブルースですごく好きな曲、キラーチューン・シングル「JUMP」やストリングスが入ったメロウな「仕草」、およびそのカップリング、2000年代の曲も充実した内容で「雑踏」は芸術的なバラード。

2009年1月14日(Appleでは1月21日)に配信でリリースした間寛平のアースマラソン応援歌「RUN寛平RUN」と「走れ何処までも」。「RUN寛平RUN」は6分を超えるジョン・リー・フッカーなブルース、ブギーな「走れ何処までも」と逝去後のシングル曲「Oh! RADIO 」のつなぎがいい感じ。「Oh! RADIO」は清志郎が全てを演奏しているロッカバラードな曲で提供曲のガイドとして録音されたトラックだ。ラストは「Oh! RADIO 」のカップリング、チャボとの共作「激しい雨」で、2006年5月14日に清志郎のプライベートスタジオ・ロックンロール研究所にて、ヴォーカルとピアノ、サックスは清志郎、エレキGがチャボ、ドラムが新井田耕造、アコギとベースが三宅伸治というメンツで録音されたプライベート・セッションを収録。

激しい雨が降る世界に鳴り響くRCサクセションのロックンロールとソウル。何度でも夢を見せてやる。自身の音楽の力を信じ切った力強い歌声。“ 陽焼けしたままの夢 ” が「Sweet Soul Music」を、 “ ダイヤモンドが輝いている夜の夢 ” が「雨上がりの夜空に」を思い起こさせる。
そして歩き出した未来に向けて歌う “ 誰もが見守っている 世界は愛し合うのか ”  と。

忌野清志郎はいつもステージから問いかけていた。
愛し合ってるかい。

以下は今回『COMPILED EPLP -ALL TIME SINGLE COLLECTION-』に収録されなかったシングル。
[1] 忌野清志郎, Johnny, Louis & Char「S.F.」
[2] タイマーズの3枚のシングル「デイ・ドリーム・ビリーバー」、「ロックン仁義」、「サヨナラはしない」
[3] HISの2枚のシングル、「夜空の誓い」、「日本の人」
[4] 忌野清志郎と篠原涼子の「パーティーをぬけだそう!」
[5] 忌野清志郎「ブーアの森へ」
[6] 木梨憲武+忌野清志郎「ガンバレ日本」
[7] LOVE JETSの3枚のシングル「青い星」、「宇宙大シャッフル」、「UFO神社」
[8] ミツキヨ「強烈ロマンス」
[9] サルサガムテープ with 忌野清志郎「ONABE」
[10] 忌野清志郎 feat. RHYMESTER「雨上がりの夜空に 35」
[11] 忌野清志郎 with 井上陽水「愛を謳おう」

レコード会社が違うのは[5]エイベックス、[6]ワーナー、[7]コロムビア、エイベックス、FENOMENO(インディ)、[8]イーストウエスト(ワーナー)、[9] NUK NUK(インディ)といったところで、このあたりは収録が難しかったか。

[1]はアニメ『県立地球防衛軍』サントラからで、収録してもよかったと思うが、シングルに収録されていないKJL&C版の「プライベート」を含めて3曲を今後まとめて欲しい。
[2]のタイマーズはなぜか収録されず、ZERRYだから?それとも別枠でまとめるのかな。
[3]の細野晴臣と坂本冬美とのユニットHISも映像含め、SIMや坂本冬美のシングル「幸せハッピー」と別枠でまとめて欲しい。
[7]のLOVE JETSもまとめて欲しいなぁ。
[4]、[10]、[11]は収録可能だったと思うが、デュエット系は外したかな。

参考文献:忌野清志郎著『忌野旅日記』、ロックン・ロール研究所編『忌野清志郎画報・生卵』、ROCKIN' ON JAPAN特別号『忌野清志郎 1951-2009』、 Rockin' On Japan 1992年3月号 Vol.58、ベイビィズ音楽出版監修『地球音楽ライブラリー・忌野清志郎』、ミュージック・マガジン増刊『忌野清志郎・永遠のバンド・マン』、 TV Bros.臨時増刊『みんなの忌野清志郎』

このブログの人気の投稿

TH eROCKERS「可愛いあの娘」

NICO『LIVE IN DENMARK』

ザ・ルースターズ「PLAYLIST from ARTISTS」