THE STALIN『trash』
1980年6月26日、ザ・スターリン(Vo&B遠藤ミチロウ、G金子あつし、D乾純)が渋谷屋根裏(昼の部)でデビュー・ライヴ。しばらくしてベースに杉山シンタロウが加入、フレキシ「電動こけし/肉」、5曲入りEP「スターリニズム」を自らのポリティカル・レコードよりリリース、ギターが金子あつしからタムに代わったのち、ファースト・アルバムの制作に着手、1981年9月スタジオ(MOD-STUDIO)での録音に加えて、1981年10月31日の市ヶ谷法政大学学館大ホールと11月7日の京都磔磔においてアルバム収録用のライヴ・レコーディングをおこなった。
1981年12月24日、ファースト・アルバム『trash』をポリティカル・レコードよりリリース。A面スタジオ録音、B面ライヴ録音。定価2,000円。ディストリビューションはシティ・ロッカー・レコード。当初プレス枚数限定1,000枚だったが予約殺到により限定2,000枚に変更するも発売1ヶ月で完売となった。売切れ直後には1日100人以上の問合せと、追加プレスを望む抗議と怒りの声があがったものの、追加プレスされずに早々に入手困難、コレクターズ・アイテムとなった…。それから38年後…。
2019年12月31日、THE STALIN【公式】twitterで『trash』がCD(紙ジャケ仕様)、アナログ盤で再発売されると発表。デビュー・ライヴから40年後の2020年6月26日、渋谷WWWXで開催のTHE STALIN 40執念GIG「大破産」の会場にて『trash』が先行販売される…はずだったが、新型コロナ(COVID-19)感染拡大およびその予防により40執念GIG「大破産」の延期を6月12日に発表した。
2020年5月29日、『trash』CD、LP予約開始。
2020年6月4日、遠藤ミチロウのマネージャー伊藤玲育(遠藤ミチロウオフィス)がエンドウ ミチロウTwitterに「THE STALIN『trash』再発によせて」を掲載。
長らく再発されなかった『trash』がミチロウ逝去約8ヶ月後と短期に再発決定したこと、そこにミチロウの意思はあったのかという懐疑的な意見に対して発せられたものと思われる。
2020年7月1日、『trash』再発CD(税込2,750円)、アナログ盤(税込4,000円)リリース、アナログ盤は各ショップ予約で売切れとなったが一部ショップでは発売日店頭に並んだようだ。 レーベルはポリティカル・レコードでカタログ番号はオリジナル盤(MIG2505L)からの続き番号だった。再発アナログ盤がMIG2506L、CDがMIG2507。
以前も書いたけど、ザ・スターリンが「スターリニズム」や『trash』をリリースしていた頃、音楽以外の週刊誌的な話題が多くてザ・スターリンは聴いてなかった。それでもメジャー盤『STOP JAP』はよく聴いたし、ミチロウ『ベトナム伝説』やMichiro,Get The Help!『オデッセイ・1985・SEX』は聴いてたかな。80年代の終わり頃、仕事先で音楽好きのアルバイトのI君が、ザ・スターリン聴いたことないけど、特に初期の自主盤聴いてみたいって話になって、
I君はたぶんインディ盤を扱ってるレンタル店で『trash』と編集盤『STALINISM』を借りて聴いてザ・スターリンの虜になってた。その時に『trash』と編集盤『STALINISM』をカセットテープにダビングしてもらったけど、その時もそんなに『trash』を聴いたなーって覚えはないな。
I君はそのあと(ザなしの)スターリン結成とアルバム『JOY』リリースに喜んでた。I君お元気ですか?
ある日レコードショップで『trash』の新品アナログ・ブートレグ(リプロ盤)を見かける。が、B面に針飛びがあり、と注意書きがあった。いくらで売ってたか覚えてないけど3,000〜4,000円の間だったと思う。Discogsで調べるとこのブートNagasaki Nightmare盤は1997年のリリースとなっているけど、私が見たのは2000年代に入ってからだと思う。そんなに長い間売ってたのかな…。この頃になると『trash』欲しい気持ちもあったけど、針飛びあるし、それなりに値段はするし、I君に録ってもらったテープあるし…と、買わなかった。そのあと(2010年頃かな)Nagasaki Nightmare盤が中古で3,000円で売ってたのでかなり迷ったけど、この時も結局買わなかった。オリジナル盤『trash』は、3年くらい前に中古盤屋で見たなー。50,000円だった。中古にしては外観は綺麗だった(ジャケが白だからね)。ひととおりねっとり眺めて元に戻した。もちろん買えないよー。
ザ・スターリンがスキャンダラスな話題をバラ撒きながら、クールでエッジの効いたタムのギターが加わりサウンド的にもバンドがまとまり勢いづいてゆく過程で、それまでのレパートリーのほとんどを注ぎ込んで制作・リリースされた『trash』。スタジオ録音のトラック1〜10(アナログのA面)はどれもエキサイティングなナンバーばかり。
「解剖室」と「冷蔵庫」ではサディスティックに肉体のパーツを描写した歌詞がファスト&ハードなサウンドにのせて歌われる。そこでは硬直し、長期保存されたコトバやアタマの中身・思考をもバラバラに破壊し、聴くものの目前に表出させる破壊力抜群の冒頭2曲。
イヤイヤ・ナイナイって歌詞がキュートにも聴こえるポップな「TRASH」、“ きまって俺は天上を見上げ そして出口を壊してお前に取り憑き… ” というフレーズが後の「天国の扉」を思わせる「天上ペニス」、“ 労働 学習 生殖 睡眠 ” という革命的フレーズが繰り返し呟かれるフリーキーな「革命的日常」は、スターリニズムな日常をダンサブルに描き切った曲。
後に歌詞を加え「ロマンチスト」となる「主義者(イスト)」、ストレートに嘲笑的な「インテリゲンチャー」、ポップなザ・スターリン式究極のラヴ・ソング「バキューム」、ショートカッ飛びチューン「Bird」、“ おまえと消え去ることが出来ない ” と繰り返し歌われる「溺(DEKI-AI)愛」は 1〜2分の曲が多いこのアルバムで最長5分のダークでヘヴィなナンバー。
できないとできあいがかかってるのかな?
できないとできあいがかかってるのかな?
ライヴ録音のトラック11〜20(アナログのB面)は「メシ喰わせろ」で始まる。
この曲はすごく意識していたというINU「メシ喰うな!」のパロディとミチロウは話していたが、ライヴ録音された法政大ライヴの5ヶ月ほど前、横浜国大でのライヴ(YouTubeにあり)ではINU「メシ喰うな!」の歌詞のまま、“ 俺の存在を頭から打ち消してくれ あの中産階級のガキどもに… 俺の存在を頭から否定してくれ メシ喰うな! ”と歌っている。ここでの曲調はイギーのというよりピストルズの「No Fun」な感じでロックンロール的なフォームで演奏されている。そこからミチロウによって歌詞はスターリニズム的に変換され、演奏もフリーキーで歌詞も真逆の、“ 俺の存在を頭から輝かさせてくれ お前らの貧しさに乾杯 メシ喰わせろ!” と歌われる「メシ喰わせろ」に発展したのだろう。
このライヴ録音の10曲のうち8曲が1981年10月31日法政大学学館大ホールでおこなわれたライヴからで、この日の法政では18曲が演奏された。
1981年10月31日法政大学学館大ホール・セットリスト
1.「メシ喰わせろ」
2.「ハエ」
3.「ハードコア」
4.「バキューム」
5.「天上ペニス」
6.「猟奇ハンター」
7.「GASS」
8.「Light My Fire」
9.「ソーセージの目玉」
10.「電動コケシ」
11.「アーチスト」
12.「サル」
13.「解剖室」
14.「豚に真珠」
15.「コルホーズの玉ネギ畑」
16.「Bird」
17.「TRASH」
18.「撲殺」
このうちアルバム『trash』には1.2.3.6.10.11.12.18が収録された。
「豚に真珠」と「GASS」は、“ ガラスのコップやビール瓶を額にマトモに受けた鮮血でミチロウの上半身は真っ赤に染まり、傘や消化器が乱舞する異常な空間だった”(渡辺和弘・『STOP JAP NAKED』付録プレスキットより)という凄まじいライヴだった1981年11月7日京都磔磔のライヴから収録。
なお、10月31日法政大学の音源は、オーディエンス録音ながら2007年2月21日徳間ジャパンからリリースされた4枚組ボックスセット『飢餓飢餓帰郷』Disc 1に、上記セットリストの4.5.6.7.14.16.17が収録されている。
法政大学のライヴは石垣章により撮影された写真とともに “ 逮捕された変態ロック ”とキャプションがつけられ創刊間もない写真週刊誌「フォーカス」 に掲載されてザ・スターリンの名を一躍有名にした(法政大の数日後、高校の学園祭ライヴでミチロウが下半身裸になり公然ワイセツ罪で逮捕されている)。
2020年を生きる、全ての革命的変態諸君!
生ゴミ・糞尿・臓物バラ撒き、裸・露出・鮮血・公然ワイセツ、コトバとビートにより扇動・増幅された暴力衝動を用いて、オーディエンスへの専制的で弾圧的なスターリニズムの実践という “ 革命的 ” なステージを繰り広げたザ・スターリンの凄まじいテンションと圧倒的なエネルギーの解放を確認せよ!
trash [træʃ]
_他動詞1(反抗して)…を無差別破壊する 2…をくず物扱いする
参考文献:石垣章・撮影『遠藤ミチロウ・ライブ写真集・吐き気がするほどロマンチックだぜ!』、マガジン・ファイブ刊『ザ・スターリン伝説・スキャンダル★スクラップ集』、CD『STOP JAP NAKED』付録プレスキット、「旺文社シニア英和辞典・四訂版」