陣野俊史著『ザ・ブルーハーツ ドブネズミの伝説』
陣野俊史が2000年に出版した、じゃがたらの評伝「じゃがたら」は、バンド活動当時じゃがたらを聴いていなかった私に、じゃがたらの音楽の素晴らしさを教えてくれた本だった。その陣野俊史が新たにザ・ブルーハーツの本を出版した。
ザ・ブルーハーツが1987年にインディで出したシングル「人にやさしく c/w ハンマー」、同じく1987年にリリースしたメジャーデビュー・シングル「リンダリンダ c/w 僕はここに立っているよ」は友人に借りて聴いた。ピストルズやクラッシュ・タイプのパンク・ロック。
1987年…。セックス・ピストルズの解散からは9年が経ち、1985年にはクラッシュも解散、ダムドやストラングラーズも音楽性を変えていたし、1982年にザ・ジャムを解散したポール・ウェラーはスタイル・カウンシルを結成、ジャズやソウルを取り込み音楽性を大きく変えていた。
1980年代も半ばを過ぎての初期パンク・ロック・スタイルには今更感があり、ブルーハーツの活動していた当時、私は特に好んで聴いていたわけではなかった。だけど1989年にリリースされた真島昌利のソロ・アルバム『夏のぬけがら』を聴いて気に入り、遡ってザ・ブルーハーツも聴くようになった。
『ザ・ブルーハーツ ドブネズミの伝説』は、バンドの経歴や当時の世相を折り込み、現代の視点からザ・ブルーハーツの歌詞を詩として読み解く、という本で、新型コロナウィルス感染に怯える現代に再び読まれているというカミュ著「ペスト」を通して「リンダリンダ」で歌われるドブネズミを読み解き、「チェルノブイリ」は反原発なのかを考察、「手紙」でヴァージニア・ウルフを紐解き、マーシーのソロ作品をも取り上げる。「少年の詩」や「世界のまん中」で孤独と世界を対比し、「すてごま」や「やるか逃げるか」で自衛隊派遣との関連を検証、「幸福の生産者」や「ヒューストン・ブルース」でブルーハーツの解散について考えてみる、といった具合だ。
この他にもブルーハーツにとどまらず、ハイロウズ、クロマニヨンズからも歌詞がセレクトされ、取り上げられている。バンドメンバーや関係者の言葉は過去出版された書籍やインタビュー記事を参照していて、直接のインタビューはない。歌詞、および歌詞の背景の考察・解釈としては文学的側面からのアプローチとなっていると思うが、ヒロトとマーシーの場合、ブルースからの影響という側面もあると思う。
例えば、トレイン(列車・汽車)やバスといった単語を歌詞に使用するのはロバート・ジョンソンなどのブルースからの影響・引用も考えてみても面白いんじゃないかと思う。
ファースト・アルバム収録曲「パンク・ロック」の衝撃についても記載があるが、確かにビーマイベイビーなリズムにのせて “ 僕 パンク・ロックが好きだ ”と歌われるのを聴いた時は、これ言っちゃうんだ?、と思ったなぁ。パンク・ロックを40年以上経っても聴いているなんて、あの時の自分からすれば、まだパンクなんて聴いているの?と言うだろう。だけどこの歳になっても聴いてるんだなー。正に、
“ 僕 パンク・ロックが好きだ 中途ハンパな気持ちじゃなくて 本当に心から好きなんだ ”
ってことだったんだろう。甲本ヒロトの言う通りだったんだな…。
ってことだったんだろう。甲本ヒロトの言う通りだったんだな…。
この本の冒頭でアナーキーとザ・スターリンを混同している部分があるけど、 河出書房新社ホームページの本書紹介欄にお詫びと訂正が掲載されている。