My Wandering MUSIC History Vol.88 JOHNNY THUNDERS & THE HEARTBREAKERS『L.A.M.F. Revisited』

1984年、Jungle Recordsよりリリースのアルバム(日本では1984年、SMSよりリリース)。

1984年にリリースされたジョニー・サンダース&ザ・ハートブレイカーズの『L.A.M.F. Revisited(邦題:L.A.M.F.〜復活)』。

このアルバムを聴くきっかけはもう覚えていないのだけれど、たぶんジョニーのソロ『ソー・アローン』を借りて聴いて気に入ったことから、ジョニーがソロ以前に発表していたグループの作品ということで日本盤アナログをやはりH君から借りたんだと思う。黒地にスプレーペイント風にL.A.M.F.とピンクで印刷されたジャケット・デザインはヴィヴィッドな印象を受けたし、当時は “ REVISITED ” といっても私はオリジナル盤『L.A.M.F.』を聴いていないから比べようもなく、私にとっては初めて聴いた『L.A.M.F. Revisited』が長年オリジナルといってもよかった。

1984年当時既にパンク・ロックからニュー・ウェイヴへと興味が移っていたものの、パンクというカテゴライズよりも、プリミティヴな魅力にあふれた、もっと根源的な魅力にあふれたロックンロールの作品として聴けた。アナログ盤からカセットテープに録音して愛聴したなぁ。

“ L.A.M.F.”
ジョニー達が少年時代暮らしていたニューヨークで跳梁跋扈していたストリート・ギャングが壁に残すスプレー文字で“ Like A Mother Fucker ” の略。アルバム・タイトルにしたのはジェリー・ノーランのアイディアだという。オリジナル盤のジャケットではHEARTBREAKERS名義だったが、このリミックス盤ではJohnny Thunders & The Heartbreakers名義に変更されている。

“ REVISITED ”
調べてみると、再訪、再考、見直し、という意味があるようだけど、1977年秋にロンドンで録音・英トラック・レコードからリリースされたオリジナル盤のミックスに不満があったバンドや、ミックス/音質に批判的なメディア、リリース後1978年春頃にはトラック・レコードが倒産したため長く廃盤状態が続いた『L.A.M.F.』という曰く付きのアルバムにとって、6年余り後の1984年2月にジョニー・サンダース(アシスタントはジェネレーションXのトニー・ジェイムス)がロンドンのグリーンハウス・スタジオを訪れ、ギターのダビングやヴォーカルの取り直しを含むリミックス作業を施したということは、なるほどロンドンを再訪、内容を再度磨き直した、というわけだ。

『L.A.M.F. Revisted』 では、オリジナルLP『L.A.M.F.』から「All By My Self」を外し、「Do You Love Me」と「Can't Keep My Eyes On You」を収録した。
曲順は以下のように変更されている。
L.A.M.F. analog LP song list
T-No.L.A.M.F. (1977)T-No.L.A.M.F. Revisited (1984)
A-1Born Too LooseA-1One Track Mind
A-2Baby TalkA-2I Wanna Be Loved
A-3 All By My SelfA-3Pirate Love
A-4I Wanna Be LovedA-4Let Go
A-5It's Not EnoughA-5Do You Love Me
A-6Chinese RocksA-6Can't Keep My Eyes On You
- - A-7Get Off The Phone
B-1Get Off The PhoneB-1Chinese Rocks
B-2Pirate LoveB-2Baby Talk
B-3One Track MindB-3Going Steady
B-4Love YouB-4It's Not Enough
B-5Goin' SteadyB-5I Love You
B-6Let GoB-6Born To Lose

『L.A.M.F. Revisted』で外された「All By My Self」は同様にリミックスされ7inchシングルB面に収録「Get Off The Phone c/w All By My Self」としてリリースされている。1986年に『L.A.M.F. Revisited』が英JungleからCD化された際には「All By My Self」を8曲目に追加、ライヴ・アルバム『DTK』と2in1の『D.T.K.-L.A.M.F.』としてリリースされた。私が買ったのはこのCDで、名盤2枚のカップリングが非常にお得だった。

1994年には英Receiverから『L.A.M.F. Revisited』が単独CD化、やはり「All By My Self」を含む全14曲。ジャケットはメンバー写真に変更されているようだ。その英Receiver盤と同内容で1996年にテイチクから国内初CD化、ジャケットは1984年LPと同デザインなのがうれしい。1994年には1977年のアルバム制作時に残されていた別ミックスが多数発見(オリジナルのアルバム・マスターは見つかっていない)、そこから選ばれた190のミックスからさらに厳選して『L.A.M.F. The Lost '77 mixes』がリリースされ、現在ではアルバム『L.A.M.F.』といえばこちらが定番となっている。「All By My Self』を3曲目に収録したオリジナル盤の曲順に戻されており、「Can't Keep My Eyes On You」と「Do You Love Me」の2曲は13曲めと14曲めに収録された。
曲順は以下のように変更された。
L.A.M.F. song list
T-No.L.A.M.F. (analog 1977) T-No.L.A.M.F. Revisited (CD 1994) T-No.L.A.M.F. The Lost '77 mixes (CD 1994)
A-1Born Too LooseT-1One Track MindT-1Born To Lose
A-2Baby TalkT-2I Wanna Be LovedT-2Baby Talk
A-3 All By My SelfT-3Pirate LoveT-3All By My Self
A-4I Wanna Be LovedT-4Let GoT-4I Wanna Be Loved
A-5It's Not EnoughT-5Do You Love MeT-5It's Not Enough
A-6Chinese RocksT-6Can't Keep My Eyes On YouT-6Chinese Rocks
B-1Get Off The PhoneT-7Get Off The PhoneT-7Get Off The Phone
B-2Pirate LoveT-8All By My SelfT-8Pirate Love
B-3One Track MindT-9Chinese RocksT-9One Track Mind
B-4Love YouT10Baby TalkT10I Love You
B-5Goin' SteadyT-11Going SteadyT-11Goin' Steady
B-6Let GoT-12It's Not EnoughT-12Let Go
--T-13I Love YouT-13Can't Keep My Eyes On You
--T-14Born To LoseT-14Do You Love Me

このハートブレイカーズ、ジョニー・サンダースだけじゃなく他のメンバーも魅力ある。それは曲作りにも表れていて、ウォルター・ルア&ジェリー・ノーラン作は、
「One Track Mind」
「Can't Keep My Eyes On You」
「Get Off The Phone」
「All By Myself」
の4曲。「Can't Keep My Eys On You」を除く3曲はウォルター・ルアのヴォーカル。どれもキャッチーな必殺ロックンロール・ナンバーだ。「Can't Keep My Eys On You」は『L.A.M.F. Revisited』ではジョニーのヴォーカルになっているが、ライヴではジェリー・ノーランがヴォーカルをとっていたこともあったようだ。
ジョニー&ジェリー作は「Let Go」。デトロイト出身のザ・コントゥアーズが1962年にリリースしたヒット曲「Do You Love Me」のカヴァーはウォルターの提案によるものだ。それに「I Wanna Be Loved」と「Pirate Love」のジョニー作2曲が、アルバム『L.A.M.F. Revisited』の前半〜中盤(CD1〜8曲目、アナログA面「All By Myself」は収録外)。

アナログ盤『L.A.M.F. Revisited』ではB面の1曲目になる「Chinese Rocks」。
ディー・ディー・ラモーンがラモーンズのために書きながらもドラッグ(チャイニーズ・ロックス=中国製ヘロイン)の歌を拒んだためハートブレイカーズの代表曲となった。この曲のモデルはハートブレイカーズのドラマー、ジェリー・ノーランとそのガールフレンドだったコニーで、ジェリー・ノーランがバディ・ホリーのようなドラムビートを加え、ジョニー・サンダースが真ん中にブリッジを入れ、リチャード・ヘルが3つめのヴァースの歌詞を加えたが、この3つ目のヴァースの歌詞はヘルが脱退した後は歌われなくなった、とウォルター・ルアが語っている。

“ 俺はチャイニーズ・ロックスで生きている/俺の大切なものはみんな曲げちまった/俺はチャイニーズ・ロックスで生きている/(そいつを手に入れるために)一切合財残らず質屋入りだ ”
と歌われる、女を泣かせようが、金目のものをドラッグを買う金に換えちまおうが、全てを犠牲にしてもドラッグを手に入れる、悪徳非道のジャンキー・ステイトメント。

ジョニーは後年このあからさまなジャンキー・ソングを演奏したくなかったようだが、キッズ達がよろこぶから演るんだ、と言っていた。まぁ盛り上がるよね、このアレンジは。
「Chinese Rocks」の作者はディー・ディー/ヘル/サンダース/ノーランの名前がクレジットされていたが、現在ではラモーンズのメンバーが作者となっているようだ。ラモーンズは『エンド・オブ・ザ・センチュリー』(1979年)に「Chinese Rock」として収録している。

アルバム後半5曲はジョニー・サンダース作の「Baby Talk」、「Going Steady」、「It's Not Enough」、「I Love You」それに「Born To Lose」。
アコースティックなテイストの「It's Not Enough」も好き。他はどれも文句なしのロックンロール・ナンバー。ベースのビリー・ラスも全編を通して安定したロックンロールなプレイで曲のドライブ感を増している。

『ジョニー・サンダース・コンプリートワークス』に掲載されたニッキー・サドゥン(ex-Swell Maps)がジョニーとの思い出を綴った文章の中に、ニッキーがジョニーに何故ヘロインに手を出したのかを尋ね、ジョニーは “ For kicks- 刺激が欲しかった。退屈のあまりに ” と答えているが、アルバム『L.A.M.F. Revisited』のラストに配置された「Born To Lose」には、
“ することもなく言いたいこともない/欲しいものはただひとつ/そいつが(退屈を紛らわす)唯一の方法なんだ ”
と歌われている。

大切なものを失うことがわかっていてもドラッグをやめることができない、それは失うために生まれたってこと。これもあまりにも非情なジャンキー・ステイトメント。だけど退屈を紛らわすただひとつのものを “ ロックンロール ” と置き換えてみれば、たとえ失い続けようが自分に出来るただひとつのこと、ロックンロールし続ける、というジョニーの生き様も見えてくる、 強烈なロックンロール・ステイトメントでもある。
この「Born To Lose」でアルバムが終わる印象が好きだった。

『ジョニー・サンダース・コンプリートワークス』を読んでからCD4枚組『L.A.M.F. Definitive Editon』を入手、1977年のミックスを聴いた。CD2枚目のアナログLPおこしのオリジナルミックスは、レストアされているとはいうものの、ブーミーというか、こもった音で、曲によってはバスドラやフロアタムの音が大き過ぎて締らない感じはする。全体的にガレージでロウな音像。

長いこと聴いていた『L.A.M.F. Revisited』はギターの鳴りなど高音域を前面に出して抜けを良くし、何よりヴォーカルが良く聴こえるミックスになっていたんだなぁと感じた。

参考文献:Kadoi The Heartbreak & Hiroshi The Golden Arm監修『JOHNNY THUNDERS Complete Works - the Art of Cosa Nostra』(2020年)、ニーナ・アントニア著・鳥井賀句訳『ジョニー・サンダース…イン・コールド・ブラッド』(1988年)、レコード・コレクターズ1989年2月号、『L.A.M.F. Definitive Editon』CD liner notes(2012年)、『ヨンカーズ・デモ+ライヴ1975/1976』CD liner notes(2019年)

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