My Wandering MUSIC History Vol.89 THE ROOSTERZ『パラノイアック・ライヴ』
1984年7月15日に東京港区のラフォーレミュージアム赤坂でおこなわれたライヴをヴィデオ・シューティングした作品でルースターズにとっては初のヴィデオ作品だった。監督は『狂い咲きサンダーロード』、『爆裂都市・バーストシティ』の石井聰亙、プロデューサー緒方明、撮影監督・笠松則通と石井映画でおなじみの面々。白くまるで白骨のような木々が並ぶ風景や建物を飲み込んだ溶岩が固まっている風景の映像は、おそらく1983年の三宅島噴火後に撮影したものと思われる。
ラフォーレミュージアム赤坂は1983年7月23日〜8月7日にブライアン・イーノの「ビデオアートと環境音楽の世界」を開催してオープンした多目的スペースで、ローリー・アンダーソンの日本公演が1984年6月15日〜17日におこなわれている他、NYから帰国した佐野元春がツアー直前の1984年9月にメディア向けコンヴェンションをおこなった場所でもある。
当時このソフトはVHS、ベータ共テープが12,800円、レーザー・ディスクが7,800円という高額商品。この作品だけじゃなく60分以上の映画や音楽ソフトの販売価格はテープだと1作品1万円台、レーザーディスクが少し安いという設定。なので個人的には映像作品は買うものではなくレンタルショップで借りて観るものだった。この『パラノイアック・ライヴ』はレンタルがあったのかわからないが、何年か後に友人のKBちゃんに観せてもらった。それに『パラノイアック・ライヴ』の音だけテープに録音してもらって聴いてたなー。
ソフトも高かったが、その頃にはハードも値段が下がってきていたとはいえ、HI-FI録画再生ヴィデオ・デッキは定価200,000円以上はしていたと思う。今回記憶を頼りに私が買ったヴィデオ・デッキをネットで探してみたら、私が買ったのは、Victor HR555というデッキで定価は218,000円。1985年にグッドデザイン賞を受賞しているので、たぶん1986年頃に購入したのかなぁ。たしかバイト代貯めて買った覚えがある。私が『パラノイアック・ライヴ』のソフトを購入したのは廉価再発になった3,400円(税抜)型番:34HC-345のVHSテープ(右上のジャケ写)。
ラフォーレミュージアム赤坂のステージにはロシア語・キリル文字で「ЗАМЕЧАТЕЛЬНЫЙ СОН」(=素敵な夢、Good Dream)と書かれた横断幕が掲げられ、鉄塔を模した構造物の上で演奏するメンバー達、低い位置にドラムの灘友、向かって右側の少し高い位置にギターの下山、ほぼ中央の一番高い位置にベースの柞山。左端にはさらに高い鉄塔がそびえる。その鉄塔構造物の前には、人物や工場、手のひらに注がれる液体の絵がペイントされた取り替え可能な板が取り付けられ、英語で “ Great cause of peoples(人民の偉大な大義)”とか“ Corrosive(腐食性)”とかの文字が書かれている。それに病院にあるような白いパイプ・ベッド。キーボードの安藤の前には木製のテーブルと椅子が置かれている。
Photo from『パラノイアック・ライヴ』ヴィデオ・パッケージ
このステージ・セットはTRAカセットマガジンやミュート・ビートのジャケット・アートディレクション等を手がけたミック板谷と、ゼルダのファーストアルバムやムーンライダース『アマチュア・アカデミー』などのジャケット写真を手がけた伊藤薫がディレクションしたもの。
2004年にリリースされたザ・ルースターズのオフィシャル・パーフェクト・ボックス『Virus Security』のDVD-2にこの『パラノイアック・ライヴ』が収録されているが、そのボックスのブックレットに「The Roosters a GoGo 18号、1984年7月」(ルースターズのファンクラブ会報)から伊藤薫のコメントが再掲されている。
“ ステージのテーマ・設定は、「ロシア構造主義」っぽさ ”
“ シュールレアリズムに近くて、パースペクティヴがどこか狂っていて、視覚的に落ち着かず、バランス感覚を失うようなところに焦点を当てた ”
“ 今回は、大江くんの現在の心理を、思いっきり前に押し出していった方がいいんじゃないかってことで、ステージにベッドを置いたわけ ”
と語っている。
「ロシア構造主義」とブックレットに書かれているが、伝えたかったのは「ロシア構成主義」だろう。伊藤薫は大正時代の前衛美術家集団マヴォのメンバー村山知義からの影響も語っている。鉄塔風の舞台装置、様々にペイントされたボード、意識的で印象的な白色と赤色、ステージ背景に貼った幕に時折影を映し出す効果的なライティングなど、全体的にロシア・アヴァンギャルド/構成主義を感じさせるステージ・セットとなった。
2004年にリリースされたザ・ルースターズのオフィシャル・パーフェクト・ボックス『Virus Security』のDVD-2にこの『パラノイアック・ライヴ』が収録されているが、そのボックスのブックレットに「The Roosters a GoGo 18号、1984年7月」(ルースターズのファンクラブ会報)から伊藤薫のコメントが再掲されている。
“ ステージのテーマ・設定は、「ロシア構造主義」っぽさ ”
“ シュールレアリズムに近くて、パースペクティヴがどこか狂っていて、視覚的に落ち着かず、バランス感覚を失うようなところに焦点を当てた ”
“ 今回は、大江くんの現在の心理を、思いっきり前に押し出していった方がいいんじゃないかってことで、ステージにベッドを置いたわけ ”
と語っている。
「ロシア構造主義」とブックレットに書かれているが、伝えたかったのは「ロシア構成主義」だろう。伊藤薫は大正時代の前衛美術家集団マヴォのメンバー村山知義からの影響も語っている。鉄塔風の舞台装置、様々にペイントされたボード、意識的で印象的な白色と赤色、ステージ背景に貼った幕に時折影を映し出す効果的なライティングなど、全体的にロシア・アヴァンギャルド/構成主義を感じさせるステージ・セットとなった。
ルースターズの演奏は、大江が寝ていたベッドから飛び起きて歌い始めるというやや露骨な演出の「I'm Swayin' In The Air」で始まり、「She Broke My Heart's Edge」では熱狂する観客とメンバーがオーバーラップする映像に、ハイ・ステンレス両刃の画像が合成され迫ってくる(double edgeだから?)。オフィシャル・パーフェクト・ボックス『Virus Security』のブックレットには『パラノイアック・ライヴ』についての石井聰亙監督のコメントも再掲されていて、
“ ファンの皆さんに喜んでもらえるような「アイドルもの」として、アップを多くしました ”
と語っていたが、大江慎也のみならず、花田が歌う「Drive All Night」は顔アップ多く、別アングル3分割画面と花田ファンにはたまらん演出。この曲では椅子に座って佇む大江慎也。
合成ということでは「Drive All Night」でも地下鉄のシーンが、大江がフェンダー・リードIIを振り回す「Come On To Me」ではブラウン管や電子部品のパーツが合成された演出。このあたり非常に石井聰亙的なムードが漂っているが、普通にステージ・シーンが観たい、という気持ちもある。
さらにやってくれたのは「I'll Be Eyes」(後の「Venus」)で、冒頭の透明な球状の泡?に閉じ込められた大江慎也、その泡が粉々に砕け無数の星になるような演出はともかく、この日のライヴで大江は英語の歌詞で歌っていたが、歌詞を英詞からスタジオで歌った日本語詞(クレジットはルースターズ作詩)に差し替えるため、大江が歌い出すと画像処理された映像に切り替わり、画面全面カラーバー、テストパターンのような映像になってしまっている。さらに曲の後半で石井監督は野戦病院のようなシークエンスを挿入、担架で運ばれる大江は人差し指を突き出し、突然画面に現れるNO WARの文字。
もはや映像的にはズタズタになってしまっている。ショートストーリー的な処理をするにしてもこの辺りうまくまとめられなかったのかという気もする。しかしこの曲でしばしばみせる大江の恍惚とした表情は捨てがたい。元の英詞のまま収録しても良かったと思うが。この曲で花田の弾いているグレッチ・カントリー・ジェントルマンが渋い。
映像がブラック&ホワイトになって花田が歌うヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコのカヴァー「Femme Fatale」。アレンジはのちのアルバム『Φ』に収録されたものとは違い、ギターとキーボードのみで弾き語りのように始まり、途中でベースが、後半になってドラムが入ってくるアレンジ。のちにボックス・セットに収録されたヴァージョンに近い、というか元々このアレンジだった。曲の終盤にインポーズされる女性のポートレイトは、イギリスの女優シャーロット・ランプリング(Charlotte Rampling)で、リリアーナ・カヴァーニ監督『愛の嵐(原題:Il Portiere di notte)』(1974年)、ルキノ・ヴィスコンティ監督『地獄に堕ちた勇者ども(原題:The Damned)』(1969年)に出演、退廃と背徳、悲劇的な役柄を演じた。
続くイギー・ポップのカヴァー「Tonight」。この時期よく演奏されていた曲。 “ I saw my baby. She was turning blue.... ” という歌い出しが好き。
「Come On To Me」、「I'll Be Eyes」、「Femme Fatal」、「Tonight」の4曲は、当時レコードとしては発表されておらずこのヴィデオが初出。この4曲はアルバム『Φ』が2000年に紙ジャケ再発された際、この時のライヴ音源(ヴィデオと同音源)がボーナストラックとして収録されている。
痛々しいのは「Case of Insanity」。ベッド脇で喘ぐように歌う大江。ベッドを押したり引いたり凝視したり、最後にはまるで檻の中のようにベッドのヘッド部から頭を突き出して歌う。雑誌『ロック画報 No.17 特集めんたいビート』のなかで、このライヴ作品が『パラノイアック・ライヴ』と名付けられたのが “ 花田には不快だった ” という記載があるが、ヴィデオのタイトルと内容との関係を考えるなら、この日演奏した「Case of Insanity」のパフォーマンスに由来するのでは…という気もする…。
レッド、オレンジの照明に浮かび上がるステージが劇的な「Sad Song」、明るく照らされたステージで演奏されたアンコールの「Good Dreams」で本編終了。
「I'll Be Eyes」冒頭のインスト部分が流れる中、エンドクレジットが映りヴィデオは終了。
クレジットには “ Recorded at LAFORET MUSEUM AKASAKA 15th July 1984, and others........ ” と記載があるように、「I'll Be Eyes」に限らず全体的にヴォーカルは録り直し差し替えがおこなわれている。しかしこの時期のルースターズのライヴ・ステージの熱狂を損なうものではない。
当日のセットリストは、
Opening SE. Je Suis Le Vent
1. I'm Swayin' In The Air
2. Hard Rain
3. She Broke My Heart's Edge
4. She Made Me Cry
5. 風の中に消えた
6. I'll Be Eyes
7. Femme Fatal
8. Drive All Night
9. カレドニア
10. Come On To Me
11. ニュールンベルグでささやいて
12. Tonight
13. Case of Insanity
14. ロージー(ニュールンベルグ Ver.)
15. Sad Song
16. All Alone
Encore
17. Good Dreams
18. Come On To Me
19. I'll Be Eyes
ヴィデオ『パラノイアック・ライヴ』には、この中から1、3、6、7、8、10、11、12、13、15、17の11曲を収録(オープニングSEも収録)。
Opening SE. Je Suis Le Vent
1. I'm Swayin' In The Air
2. Hard Rain
3. She Broke My Heart's Edge
4. She Made Me Cry
5. 風の中に消えた
6. I'll Be Eyes
7. Femme Fatal
8. Drive All Night
9. カレドニア
10. Come On To Me
11. ニュールンベルグでささやいて
12. Tonight
13. Case of Insanity
14. ロージー(ニュールンベルグ Ver.)
15. Sad Song
16. All Alone
Encore
17. Good Dreams
18. Come On To Me
19. I'll Be Eyes
ヴィデオ『パラノイアック・ライヴ』には、この中から1、3、6、7、8、10、11、12、13、15、17の11曲を収録(オープニングSEも収録)。
オフィシャル・パーフェクト・ボックス『Virus Security』のDVD-1「プライベート8ミリフィルム by 石井聰亙」のなかに、この時のステージから『パラノイアック・ライヴ』には未収録の「She Made Me Cry」が収録されている。ベッドに腰掛けた大江慎也のアコースティック弾き語りで、画面上部に編集用タイムコードが入った映像。
雑誌「宝島・1984年11月号」に掲載されたリリース当時の 広告
このライヴ・ヴィデオ、単体ではDVD化されていないのが意外だった。