レッグス・マクニール&ジリアン・マッケイン著・島田陽子訳『プリーズ・キル・ミー アメリカン・パンク・ヒストリー無修正証言集』
副題にあるようにオーラル・ヒストリー(口承記録)、当事者たちによって語られるUSパンク・ロックの歴史。
原書は1996年に出版され、2007年にはGarageland Jam Booksより邦訳が出版されている。私も何度か中古ショップで見かけて手に取ってはいたのだが、証言集かーと思って未読となったいた。なかなか厚い本だしね。けれどここのところジョニー・サンダースやNYパンク関連に興味が再熱、2020年に邦訳再刊となった「プリーズ・キル・ミー」も読んでみたくなり購入。2007年の邦訳ではピンク一色の装丁だったが、今回はウォーホル一派の写真(ヴェルヴェッツ、ニコ、 アンディ・ウォーホル、ダニー・ウィリアムス、ジェラルド・マランガ、スティーブン・ショア、ポール・モリセイ)が表紙に使われている。
1965年ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを結成するルー・リードとジョン・ケイル、スターリング・モリソンの証言から始まり、大別すると、
ヴェルヴェッツと宿命の女ニコ、アンディ・ウォーホルのファクトリー関係者、
ザ・ドアーズに続けとばかりに浮上してきた淫力魔人イギー・ポップのストゥージズと武闘派MC5のデトロイト勢、
派手な化粧と女物の衣装を着た突然変異のようなルックスでプリミティヴなロックンロールが支持されたニューヨーク・ドールズ、
パティ・スミス、テレヴィジョン、ラモーンズを生み出した極最初期のニューヨーク・パンク、
それらのメンバー、バンド関係者、メディア、グルーピーたちにより語られる、赤裸々で、生々しく、無修正の証言…。
派手な化粧と女物の衣装を着た突然変異のようなルックスでプリミティヴなロックンロールが支持されたニューヨーク・ドールズ、
パティ・スミス、テレヴィジョン、ラモーンズを生み出した極最初期のニューヨーク・パンク、
それらのメンバー、バンド関係者、メディア、グルーピーたちにより語られる、赤裸々で、生々しく、無修正の証言…。
繰り返し刺激を求める日々、貴重なはずの自由を退屈と名付け刹那的に費やし、ロックンロールを求める…。セックス、とにかく常にドラッグ、ロックンロール、さらにヴァイオレンス…若き彼・彼女らの無軌道なロックンロール・ライフ。
後半では、なんでもありの無法な日々が破綻していく様が証言により浮き彫りにされていく。
MC5、ストゥージズ、ニューヨーク・ドールズが解散。ウェイン・カウンティとディクテイターズのハンサム・ディック・マニトバの騒動、デッド・ボーイズのメンバーとローディ絡みの事件、パティ・スミスがステージから転落負傷し、セックス・ピストルズの訪米と解散、ナンシー・スパンゲンとシド・ヴィシャスが死亡した。パティ・スミスはアルバム『ウェイヴ』リリース後ロックシーンから引退、ラモーンズからディー・ディーが抜け、ニコがイビサ島で死んだ。ジョニー・サンダースがニューオリンズで死亡、しばらくしてジェリー・ノーランが死亡した。
そして1993年、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの再結成。
1965年にはドラッグやサドマゾを扱い耳障りなノイズを演奏して一般的には忌み嫌われていたバンドが、1993年にはそのバンドの楽曲が圧政への抵抗の支えとなったと全体主義政府を倒したチェコの大統領に招かれるまでになった。
この本はただ証言を羅列しただけではない。綿密に編み込まれ配置された多くの証言から、
享楽的に過ごした日々と死屍累々のロックンロールライフが生み出した数々の作品が、圧倒的に純粋な自由の結晶であった、と認識、または再確認するまでの物語である。
個々の証言はとても興味深いものがあるが、
パティ・スミスの初期のポエトリー・リーディングの状況が情熱的に語られていたり、ディー・ディー・ラモーンが53丁目と3番街の角やカーボナの生活、楽器超初心者集団ラモーンズ結成を振り返ったり、トム・ヴァーレインとリチャード・ヘルのバンド活動開始までと、テリー・オークが活動支援の条件にテレヴィジョンにリチャード・ロイドを参加させた逸話、パティ・スミスがステージから落ちてから「グローリア」を歌わなくなったこと、ラモーンズが渡英した際の楽屋でのクラッシュとの会話や、ハートブレイカーズ渡英時のセックス・ピストルズへの影響などなど。
なるほど、と思ったのはザ・デーモンズ(ウォルター・ルアがいたバンド)のエリオット・キッドのNYパンクとUKパンクについての証言、
“ イギリスのバンドはみんな、要するに、ニューヨークじゃこういうことになってるんだろうって思い込みでやってたんだ、それがものすごい誇張になってた ”
“ ニューヨークのバンドが取り上げたのは痛みのほうで、イギリスのバンドは怒りを持ち込んだ、 セックス・ピストルズの歌は怒りを元にして書かれてたけど 、ジョニー(サンダース)が歌を書いたのは、セイブル(スター)との別れが辛かったからだよ ”
思い込み、誤解、誇張、勘違い。これと同じことが日本のバンドにもあったし、チェコスロバキアでもあったんだろう。
この本のタイトル “ 殺してくれ(Please Kill Me) ” の謎も解けます。