JOHN CALE「HALLELUJAH」

1991年、Oscar/Columbiaよりリリースのトリビュート・アルバムより。

北京オリンピックでのドーピング疑惑、ウクライナ侵攻により世界選手権からの除外と、2022年に入りロシア関連の問題が続けて起きたフィギュア・スケートの2021年−2022年シーズンが終了した。

緊迫した状況となったシーズンだったが、注目だったのはアイスダンスに転向しフィギュアスケート選手としてカムバックした高橋大輔。パートナー村元哉中と“かなだい” の愛称で呼ばれ驚きの進化を遂げ、その演技にドキドキ・ワクワクした。そしてもう一組、表現力と技術に安定と勢いを増し調子を上げてきた三浦璃来&木原龍一ペアの躍進だ。2021年グランプリシリーズのスケートアメリカで銀メダル、NHK杯で銅メダル、2022年北京オリンピックでは7位入賞、団体では銅メダル獲得に大きく貢献、世界選手権では銀メダル獲得と、国際大会において日本のフィギュアスケート・ペアとしては、これまでにない成績を残した。これは本当に嬉しいし次シーズンへの期待も高まる。

三浦璃来&木原龍一ペアがショート・プログラムで使用していた楽曲が「ハレルヤ」だった。この曲は以前パトリック・チャンが使用していたジェフ・バックリィのカヴァー・ヴァージョンを紹介したが、三浦璃来&木原龍一ペアが使用していたのはカナダ出身のシンガーソングライター、k.d.ラングのカヴァー・ヴァージョン(原曲はレナード・コーエン)。ゆっくりとしかしリズミカルに奏でるピアノの弾き語りで歌われるk.d.ラングのヴァージョンは、しっとりした情感たっぷりの演技をする“りくりゅう”ペアにはぴったりだった。ふたりの演技を見てこの曲に魅せられた人もいると思う。このk.d.ラングのカヴァー・ヴァージョンは女子シングルでアメリカ代表のマライア・ベルがフリーの演技に使用していた。

さて、今回紹介するのはk.d.ラングではなく、ジョン・ケイルによるピアノの弾き語りカヴァー・ヴァージョン。英国ウェールズ生まれのジョン・ケイルは、ゴールドスミス・カレッジで音楽を学び、ラ・モンテ・ヤング、ジョン・ケージ、トニー・コンラッドと関わりのあったアヴァンギャルド/現代音楽家、いうまでもなくヴェルヴェット・アンダーグラウンドの結成メンバーである。やや敷居の高いアーティストという感じもするが、このジョン・ケイル「ハレルヤ」は “ジョンの究極の一曲”という評価もある。

和久井光司責任編集『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド完全版』(2021年5月河出書房新社刊)から引用すると、ケイルのキャリアは、曲単位で語ることはできないと断りつつも(執筆は和久井)、
“一曲選ぶならこれだろう。多くのカヴァー曲を生んだ名曲「ハレルヤ」の中でも、ジョンのヴァージョンが一番好き、という音楽ファンが少なくない ” 
そして、
“詩と音楽が絶妙のバランスで混ざり合い、時間を止めて天空に昇る一瞬を捉えたようなピアノの弾き語りで、ジョンの心の汚れのなさを感じて欲しい ”
もうこれ以上の言葉はない。

ジョン・ケイルのカヴァー・ヴァージョンはレナード・コーエンのトリビュート盤『I'M YOUR FAN the songs of Leonard Cohen by...』(1991年)に収録されている。このトリビュート盤はイアン・マッカロクが参加していることで長らく欲しいかなーという気持ちはあったけれど、イアンがカヴァーした「Hey, That's No Way To Say Goodbye」はイアンのソロ2作目再発『MYSTERIO Deluxe 2CD Edition』(2012年)に収録されたので、コーエンのトリビュート盤を入手したのは最近だった。これが内容が良く、ハウス・オブ・ラヴ、ピクシーズ、ザット・ペトロール・エモーション、ライラック・タイム、ジェイムス、R.E.M.、ロイド・コール、ロバート・フォースター(ゴー・ビトウィーンズ)、ピーター・アスター、デッド・フェイマス・ピーブル、カハル・コクラン(ex-マイクロ・ディズニー)のファティマ・マンションズ等が参加しており、デヴィッド・マッコム&アダム・ピータースのトラックにはウィル・サージェントがギターでクレジットされていたり、と実はギターポップ/ニュー・ウェイヴ好きにはたまらん内容のポップなアルバムで愛聴盤となった。ソリッドで尖ったニック・ケイヴ・アンド・ザ・バッド・シーズがちょっと浮いてる気がするが、そのあとに始まるのがジョン・ケイル「ハレルヤ」で、アルバムのラストに相応しい余韻を残す。

ブックレットにはコーエンのアルバム『I'M YOUR MAN』のジャケットを模して参加アーティストがバナナを小道具にしたポートレイトが掲載されているのも面白い。

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