My Wandering MUSIC History Vol.95 四人囃子『二十歳の原点』
1973年10月25日、東宝レコードよりリリースのアルバム。
高野悦子著『二十歳の原点』(新潮社刊・1971年)を原作に大森健次郎監督が映画化(東京映画・1973年)した際に制作されたサウンドトラック・アルバム。オリジナル盤は、主演の角ゆり子のセリフ(朗読)と、映画のテーマ曲『二十歳の原点のテーマ』(小野崎孝輔作曲、アンサンブル・ブーケ演奏)、四人囃子の楽曲が収録されていた。
このアルバムの制作は、バンド側からすると来るべき自分達のファースト・アルバム制作を自分達が思うように作業するための、東宝レコード側からすると担当ディレクターが四人囃子のファースト・アルバムを自社からリリースすることを会社側に説得する材料とするための、交換条件としての仕事だった。レコーディングはポリドールのスタジオで2日間、森園のみ別スタジオでヴォーカルのダビング、と実質的なレコーディング期間は3日〜4日間であったという。
私が四人囃子の『二十歳の原点』の楽曲を聴いたのは、1976年9月に東宝レコードからリリースされた編集盤『TRIPLE MIRROR OF YONINBAYASHI』だった。1973年のオリジナル盤(Tam AX-6006)は当時既に入手困難だったと思う。『TRIPLE MIRROR〜』はアルバム『一触即発』+シングル「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ c/w BUEN DIA」+『二十歳の原点』の楽曲部分(小野崎孝輔作曲、アンサンブル・ブーケ演奏『二十歳の原点のテーマ』を含む)を2枚のLPに収録したもの。たぶん1977年頃に友人から借りて聴いたと思う。
この編集盤により『二十歳の原点』という映画、高野悦子の日記というものがあるのを知った。映画はその頃に観ることは出来なかったが(まぁ名画座で上映していたとは思う)、原作の日記はベストセラーになったこともあり、おそらく古本屋で単行本を買った。1969年、新左翼運動へ傾倒するも、自ら命を絶った立命館大学生高野悦子の愛と孤独と闘争の日々。二十歳の誕生日から自殺の二日前まで(1969年1月2日〜6月22日)の日記を書籍化している。
サウンドトラック『二十歳の原点』には四人囃子の曲が下記の8曲収録されている。
・今朝は二十歳
・学園闘争
・あなたはわたし
・涙の年令
・青春
・夜
・?
・四人囃子から高野悦子さん江
全作曲・編曲は四人囃子。
「今朝は二十歳」は瑞々しいギター・ストロークで始まる朗らかともいえるナンバー。ベースラインやパーカション的なドラムも印象的だ。作詩は後のファースト・アルバムでも詩を手がける末松康生。「学園闘争」はワウとオルガンが活躍する四人囃子らしいインストゥルメンタル。「あなたはわたし」は各楽器が繊細な演奏を奏でるナンバーでヴォーカルも深みを感じさせる。作詩は末松。「涙の年令」は本当の私を生きたのは何年?、愛に傷ついた心の年齢はいくつ?という意味にもとれるこれも末松康生の詩がユニークな、捻れたブルース。
オリジナル・アナログ盤ではここまでがA面で、いずれもバンドで演奏されている楽曲。
「青春」は不安定な心を歌った、岡田富美子作詩の森園のアコギ弾き語り曲。「夜」の作詩はコンフィデンス(アルフィーの前身グループ)となっているが、曲の前半部分は原作日記に書かれて(6月19日)いた高野悦子の詩に曲をつけたもので森園が爪弾くアコギで歌われる。オリジナル盤では語りを挟んで、ピンク・フロイド的なオルガンが聴けるこの曲の後半部分は、バンドで演奏されたダイナミックなアレンジの名曲。後に前半の高野悦子の詩部分は「夜I」、後半部分を「煙草(夜II)」と区別している。「?」は森園のアコギ弾き語りで歌われる曲で、原作日記の最終日(死の2日前)に書かれていた高野悦子の詩に曲をつけたもの。オリジナル盤ではこの曲の前半部分に雨音のSEが被さっている。ラストはクラシカルな坂下秀実のキーボードにのせて、高野悦子の死を悼む末松康生の詩を歌う「四人囃子から高野悦子さん江」。精神性を優先するあまり肉体を葬り去った者へ捧ぐつらい唄だ。
私が編集盤『TRIPLE MIRROR OF YONINBAYASHI』で聴いた時は、それまで聴いていた四人囃子のハードでプログレ的な音像とは違いアコースティックな曲が多く、なんか違うなーと思った記憶がある。まぁそれでも後に中古では買った。その後1998年9月にP-VINEから四人囃子の楽曲(曲順は変更されている)と未発表の映画バックグラウンド用インスト2曲と「煙草」のライヴ、「ライトハウス」のライヴを追加収録した『アーリー・デイズ(二十歳の原点+未発表ライヴ)』がリリースされた。2002年12月にはハガクレより遂にオリジナル盤アートワークと角ゆり子のセリフ(朗読)を復刻収録した内容に、P-VINE盤に収録されていた映画BGの2曲を追加した『二十歳の原点(+2)』がリリースされた、角ゆり子のセリフを聞いて「二十歳の原点」が “にじゅっさいのげんてん”と読む事も分かった。
その後、ケーブルテレビで放送された映画『二十歳の原点』も友人のおかげで観る事ができた。映画には四人囃子の楽曲はほとんど使われておらず、使用されているのはP-VINE盤で追加された映画用BGインスト曲のみだったと思う。オリジナル盤仕様で復刻されたCDの見開きジャケの内側に書かれたこの映画のプロデューサー・金子正且によれば、このレコードは、“ 音楽も言葉も歌も、その各々のどれ一つ「二十歳の原点」を断定し規定することなく、全体のフィーリングで「二十歳の原点」というものを感じとって貰うことを目的とした ” さらに “ 四人囃子の演奏は、自由な「二十歳の原点」のフィーリングをふくらませてくれるに違いない ”とある。通常のサントラというよりイメージ・アルバムに近い内容になっていると思う。
こうして原作を読み、映画を観て、あらためて角ゆり子のセリフ入りオリジナル仕様のCDを聴くと、救いなき結末の実話をもとにしているが、映画では思い切りの良い角ゆり子の演技が、音楽では例えばセリフの後に「今朝は二十歳」の瑞々しいギター・ストロークが二十歳という溌剌とした気分や陽気な思考といったものを補完しているように思う。それはオリジナル盤のジャケットでノートと本を小脇に抱え微笑む高野悦子(角ゆり子)の姿にも感じられるだろう。
おまえがおまえであるために
おまえがおまえでなくなった
雨の夜、おまえは死んだ
さよならをいうのには
雨の日は似あわない
さよならをいうのには
晴れた朝のほうがいい
自分が自分であるために
つらい唄を唄おう
「四人囃子から高野悦子さん江」作詩:末松康生
右上のジャケ写は、赤いジャケットのアナログ盤『TRIPLE MIRROR OF YONINBAYASHI』、P-VINEからのCD『アーリー・デイズ(二十歳の原点+未発表ライヴ)』、ハガクレからオリジナル盤アートワークでリリースされたCD『二十歳の原点(+2)』、それに映画原作の高野悦子著『二十歳の原点』とそれ以前の日記を出版した『二十歳の原点序章』の単行本。
参考文献:高野悦子著『二十歳の原点』(1971年)、雑誌『THE DIG No.27』(2002年)、雑誌『ROCKS OFF Vol.5』(2008年)、CD『アーリー・デイズ(二十歳の原点+未発表ライヴ)』ライナーノーツ(1998年)、CD『二十歳の原点(+2)』ライナーノーツ(2002年)、ボックスセット『From the Vaults』ブックレット(2001年)、ボックスセット『From the Vaults 2』ブックレット(2008年)