My Wandering MUSIC History Vol.96 THE ROOSTERZ『NEON BOY』
12インチ・シングルの『SOS』リリースから間もない、1985年7月27日、日比谷野外音楽堂でおこなわれたジュリアン・コープとのジョイントライヴは観に行った。ティアドロップ・エクスプローズのアルバムは当時入手難だったような気がするが、ジュリアン・コープのアルバム『ワールド・シャット・ユア・マウス』と『フライド』は気に入って聴いてたから、ルースターズもジュリアン・コープも観たかったのだと思う。
だけど、ライヴの様子はどちらもあまり覚えていない。大江のいなくなったルースターズ。スモークが大量にかかったステージが朧げに頭に浮かぶ。大江慎也の不在を強く感じ、ルースターズの演奏はただ冷たかった。ライヴが終わり、正直に言えばその時、ルースターズに対する思いが冷めていくのを感じた(ごめん)。この後にルースターズのライヴを観に行くのは解散後の1988年7月31日MZA有明だ。
それでも新生ルースターズのアルバム『ネオン・ボーイ』は発売されてすぐに購入した。メンバーの顔に蛍光ペイントを塗りたくった奇天烈なジャケット。アート・ディレクションは鏑木朋音。蛍光ペイントはTetsu Nishi、背景の水色のグラフィック・ワークは12インチ『SOS』と同様Toshiki Mochidaによるもの。発想的にはデイヴィッド・ボウイのアルバム『アラジン・セイン』のジャケットがあったかも。4人のメンバー写真の並びがビートルズ『レット・イット・ビー』と同じ並び(担当楽器パートが同じ)なのは意図的なのか。左上ヴォーカル&ギター花田(ジョン)、右上ベース柞山(ポール)、右下リードギター下山(ジョージ)、左下ドラム灘友(リンゴ)、こじつけか…。
オープニングの「Neon Boy」。T・REX「Get It On」のリフを一部借用したようなイントロとコーラス・パート。少し奇怪に響くコーラスは作詞も担当した柴山俊之。これまでも柴山はルースターズに歌詞を提供していたが、どちらかというとストイックでペシミスティックな内容が多かった。この曲では意味深な言葉選びでメイキンラヴなムード、それが曲調にマッチして花田時代を代表する、グラマラスな名曲となった。
ディレイを効かせたギターのフレーズが印象的で浮遊感のある「Stranger In Town」。
ジム・モリソン的な雰囲気が漂う内容の歌詞は柴山俊之によるもの。
“ 少女が街角で花を売る 殺人鬼が愛を求め
黒い大蛇の上にまたがり ハイウェイをやってくる”
という不気味なフレーズがメロディとアレンジにピッタリはまっている。
” 年老いた子供たちがうずくまって泣いていた ”
というフレーズは当時連載中だった大友克洋の漫画『アキラ』を思わせるが、柴山俊之って漫画読むのかな。この曲は後にリミックスされ「Stranger In Town (Super Mix)」として12インチシングルでリリースされる。
「Une Petite Histoire」。フランス語で小さな歴史という意味だが歌詞の中では、“むかし話をひとつ”と歌われている、花田作詞作曲のキュートな曲。
「ハーレム・ノクターン」(作曲・アール・ヘイゲン)は、ジャズのスタンダードのインストゥルメンタル・カヴァー。下山のギターがひたすらセクシー。薄く密やかに奏でられているギターのストロークと太く響くベースのフレーズも妖しい魅力を増している。
「OUT LAND」と9曲目(B面4曲目)の「マイ・ファニー・フェイス」は作詞・作曲下山淳、ルースターズ作品として下山が初めてヴォーカルを担当した曲。どちらもサウンドやメロディ、それに歌詞も面白いが、やや下山のヴォーカルの細さが気になる。
フォークロックな曲調の「あの娘はミステリー」は、色(カラー)にこだわった作詞(これも柴山)。“むらさき色の髪”、“プラチナ・ブルーの瞳”、“うす紅色のくちびる”を持つ神秘的な彼女、極めつけは“カミソリ色のくちづけ”(こわいね)。クレジットにはないが、“Mystery Girl”の部分のコーラスには村田有美が参加している。村田有美は同時期に下山淳がレコーディングしていた遠藤ミチロウ『オデッセイ・1985・SEX』のレコーディングにも参加しており、その縁でルースターズのレコーディングに来てもらったという。
ボトムの効いたシンプルでブギーなナンバー「Don't You Cry」。目立たない曲かもしれないが好きな曲。スピード感、花田のいぶし銀のギターソロもいい。「Lブ・Sイート・Dリーム」。わざわざLSDの歌だよと説明するかのようなタイトル表記。ヴェルヴェッツの「Sweet Jane」なコード進行で、幻覚的な愛の甘い夢を描く。ラストの「白日夢 スリープウォーカー」はキーボードの旋律にのせて歌われる下山淳作曲の幻想的でリリカルな曲。
カヴァーのインスト「〜ノクターン」を除く9曲中7曲が柴山俊之の作詞によるもの。下山が歌う2曲と「白日夢」の作曲が下山淳、他6曲の作曲は花田裕之。ストリングス・アレンジはこのあとポートレートから10インチ・アルバムをリリーするデイト・オブ・バースが担当した。アルバム・クレジットにはないが、ゲスト・プレイヤーとして「Neon Boy」と「Lブ・Sイート・Dリーム」には奈良敏博がベースで参加している。
この時期のライヴとしては2004年リリースのオフィシャル・パーフェクト・ボックス『Virus Security』CD-24に1985年8月29日新宿ロフトでおこなわれた「Person To Person III」のライヴから16曲が収録されており、リリース前のアルバム『ネオン・ボーイ』から「Don't You Cry」、「Neon Boy」など5曲の演奏が聴ける。
1985年7月27日 THE ROOSTERZ VS JULIAN COPE 日比谷野音のチケット
雑誌に掲載されたアルバム『ネオン・ボーイ』の広告
雑誌『宝島』1988年10月号のルースターズ解散時の記事で、市川清師の取材に花田は、アルバム『ネオン・ボーイ』を「二度と見たくもないし、聞きたくもない」と切り捨てている。また、MARU著『博多とロック 12人のミュージシャンに見るロックな生き方』(2006年・書肆侃侃房刊)で花田は「大江が離れていった時、大江の精神状態も良くなかったし、俺たちも良くなかった。でも仕事は多かったし、客も多かった。バンドをやってた充実感みたいなものは、ほとんどなくなっていたのに、仕事としてはうまくいっている状態っていうのは、やっぱり長続きはしないよね」とこの頃を振り返っている。
花田は複雑な思いを抱えながら、“ここで辞めたくなかった、この先を見届けたかった”という思いを支えにルーズターズのフロントマンとしてこの後3年間を走り続ける。
参考文献:Rockin'on Japan vol.36 1990年5月号、『ロック画報 17・特集めんたいビート』(2004年)、ボックスセット『Virus Security』ブックレット(2004年)