My Wandering MUSIC History Vol.97 仲井戸麗市『THE 仲井戸麗市 BOOK』
トム・ヴァーレイン/テレヴィジョンからの影響は日本でもパンク/ニューウェイヴ系のアーティストにとっては大きかったと思うが、レコード・ジャケットに“テレヴィジョンから影響された”と記している音盤はなかなか無いんじゃないか。仲井戸麗市がRCサクセション在籍時の1985年にリリースした初ソロ・アルバム『THE 仲井戸麗市 BOOK』のジャケット裏には” Inspired by "TELEVISION"とはっきり記載されている。
仲井戸は、このソロ・アルバムについて“ 俺個人の中で、ティーンエイジャーの頃から抱えこんできたようなことの、爆発っていう意味合いがあったからね。それは一度吐き出しておかなきゃっていう ” (雑誌『ロック画報 10 特集 RCサクセションに捧ぐ』[2002年]より)と語っている。
レコーディングメンバーはギター春日博文、RCからベース林小和生、ドラム新井田耕造などが参加。アレンジとプロデュースは仲井戸と春日博文。
20秒ほどのノイズのあと、ヘヴィでブルージーなリフで始まり、先のチャボの言葉通り“はき出す蓄積フラストレーション”と歌われ(叫ばれ)るオープニングの「別人」。ノイジーに乱れ飛ぶギターソロもキマってる。続くアコースティックギターのリフとタイトなドラム、エフェクト処理したヴォーカルの「カビ」。TOO MUCHな生活を嘆くようでもあり、恩恵を受け入れるようでもあるアンビバレントな歌詞(ラストに野口五郎「君が美しすぎて」の一節がさりげなく歌われている)。「BGM」は、骨も毒も魂も無い売れ線路線への痛烈なカウンター・ソング。
オールディーズなムードの「ティーンエイジャー」はヒルビリー・バップスがファースト・アルバム『ティア・イット・アップ』でカヴァーしている。“ヒミツをもとう 二人だけの”と固い結びつきを願うレゲエ・ビートの「秘密」。テレヴィジョンの「Friction」的なギターのバッキング・リフを持った「打破」は、やや自嘲気味に“変わりばえのしねえ 判で押した毎日”を嘆く。ギターソロは春日(前半)と仲井戸(後半)で分け合って弾いている。RCのコンサートでも演奏されていた。アナログ盤だとここまでがA面。
やってらんねえぜ!I'm Going Home!と歌われる小気味良いストーンズタイプのダンサブルでファンキーなロックンロール「早く帰りたい PART II」には、清志郎がコーラスで参加。ベースラインが特にかっこいいし、スネアの音もいい。「秘密」の続編のような内容でニューオーリンズな雰囲気の「MY HOME」。ゆったりしたリズムでギターのヴォリューム奏法とチャボのファルセットが耳に残る「月夜のハイウェイドライブ」。“バラを持って帰ると喜ぶなら いつか花屋と顔なじみさ”というフレーズが特に好き。
はめられてパクられた少年の逃亡の一夜を描く「One Nite Blues」。やや抑えたチャボのヴォーカルに対して冒頭からラストまでエモーショナルなギタープレイはどうだ。曲の後半ではテレヴィジョンの「Torn Curtiain」を彷彿とさせるギタープレイが激しく爆発する。アルバムのラストは「さらば夏の日 AUG '64」。こちらはテレヴィジョンというよりスタイル・カウンシル「Blue Café」といった趣のインスト。途中から入るキーボードはG2WOがプレイしている。アコギの弦とミュートやグリッサンドを使ったナチュラルなギターの音色が涼風を感じさせる。
ジャケット裏には、
" I am filled with hate for school and teacher "
の手描き文字。チャボがティーンエイジャーの頃に負った傷の深さが感じとれる。
モノクロのジャケット写真はおおくぼひさこによるもの。この時の気分を表したように息継ぎをするチャボの写真。このアルバムは妻おおくぼひさこに捧げられている(そういう内容の歌がいくつかあるよね)。
アルバムから「One Nite Blues c/w さらば夏の日 AUG '64」がシングルカットされた。