近田春夫著『グループサウンズ』
“GSとは何だったのか”
私がテレビの歌番組やドラマを興味を持って見始めた頃には沢田研二はソロで歌っていたし、萩原健一はマカロニ刑事で傷だらけの天使だった。しかし…ブルー・コメッツの♪もりとんかつ、いずみにんにく、かこーまれてんぷら♪…という「ブルー・シャトウ」の替え歌は歌っていたな。この歌どこで知ったのだろう?
中学生頃に聴き始めた日本のロックは、四人囃子やカルメン・マキ&OZなどで、だいぶGSから時代が下っていたけど、GSの有名曲はテレビやラジオなどから聴こえてきて幾つかは覚えた。先の「ブルー・シャトウ」、「花の首飾り」、「エメラルドの伝説」「想い出の渚」、「長い髪の少女」といったところ。しかしハードロック、プログレ、その後パンク、ニューウェイヴと興味は移っていったが、GSというのは既に懐メロな感じで、少女趣味的な歌詞やルックスもねぇ、まぁ関心はなく当時私の周りにGS好きという知り合いもいなかったな…。
それからしばらくして1983年に小山卓治がデビューアルバム『NG!』でモップスの「朝まで待てない」をカヴァーしているのを聴いて、モップスのベスト盤を借りて聴いた。1980年代中頃からネオGSと呼ばれるバンド群が登場し1980年代後半にはネオGSムーブメントとして盛り上がる。ネオGSはパンクによるロックンロール復権とニューウェイヴによるサイケデリック再評価を受けて日本ロックのルーツとしてGSに再注目、またカルトなGSバンドをナゲッツ/ガレージ・ロック的に掘り起こすという面もあったと思う。いくつかのネオGSバンドのアルバムは聴いたが、オリジナルGSはコンピで聴くくらいだった。
“ 誰もが知るヒット曲でお馴染みの、素人にもそれと名のわかるグループに出来得る限り焦点を絞り、ムーブメント/ブームの検証を試みる” という近田春夫の思いから始まり出版された『グループサウンズ』。“GSとは何だったのか”というテーマはこの本のプロローグで3つの特徴を近田が語っている。
・バンド自作自演ではなく職業作家による楽曲を演奏して大ヒット。
・テレビ局と芸能プロダクション主導によるブーム。
・ロックに興味のない作家の楽曲が醸し出す不思議な魅力。
これを本書は掘り下げていくのだが、第一部は近田春夫とライターの下井草秀の対話によるグループサウンズ論。取り上げているのはスパイダース、ブルー・コメッツ、タイガース、テンプターズ、ゴールデン・カップス、ジャガーズ、オックス、ワイルド・ワンズ、ヴィレッジ・シンガーズの各バンドを章立てで、その他のバンドは“忘れがたきバンドの数々”として言及。第二部は瞳みのる(タイガース)とエディ藩(ゴールデン・カップス)へのインタビュー、作曲家・鈴木邦彦(ダイナマイツ「トンネル天国」などの作曲)へのインタビューによる対話篇。第三部は近田春夫が選ぶGS10曲(と下井草秀が選ぶGS10曲)という構成。
印象的なのは、デビュー前にアニマルズなど洋楽カヴァーの演奏を聴きロック・バンドとして期待したが、その後リリースされた楽曲はロックとは言えない歌謡ちっくな、ムード歌謡な、カレッジフォークな楽曲でがっかりしたものの、それが全くつまらないかというとそうとも言えない癖になる奇妙な魅力がある、ということを近田が繰り返し語っていることだ。そこに近田にとってのGSへのこだわり、GSへの愛の深さがあるのかなと思う。
この本を読んで改めて私が知りたいのは、GSと1960年代USガレージ・バンドとの共通項はあるのか、だと思い、こんなサウンドを聴くとGSがカヴァーした洋楽曲に興味が湧いてきた。
ザ・ビーバーズ「I'm A Man」
1990年代に海外編集・リリースされた非公式GSコンピ『Intoducing TEEN TRASH FROM PSYCHEDELIC TOKYO '66-'69 in...MONSTER A GO-GO』にも収録されていた。