浅川マキ『浅川マキの世界2 ライヴ・セレクションBOX』

2022年12月21日、ユニバーサル・ミュージックよりリリースのボックス・セット。

浅川マキの未発表ライヴ音源を収録したCDボックス・セットがリリースされた。

・CD6枚組
・生産限定盤
・三方背スリーヴケース
・プロデュース:寺本幸司
・ライナーノーツ(約一万字):寺本幸司
・当時の貴重な写真掲載
・歌詞の掲載なし
・価格:10,000円(税抜)

収録内容は、
Disc 1・2:1978年7月7日 at 池袋東映「浅川マキ・真夜中の池袋・始発まで」
Disc 3:1982年4月28日 at 京大西部講堂「スキャンダル」
Disc 4・5:1991年3月30日 at 新宿PIT INN「浅川マキを聴く会」
Disc 6:1993年6月30日 at 釧路生涯学習センター・大ホール「浅川マキ・北海道ツアー最終日」

なかなかの高額商品をなぜ購入したかというと、CD『シングル・コレクション』を聴いてから浅川マキをもっと聴きたかったのと、1991年3月30日の新宿PIT INN「浅川マキを聴く会」(CD2枚)に下山淳がギタリストとして参加しているからであった。この新宿PIT INNの参加ミュージシャンは、
Vocal;浅川マキ
Guiar:下山淳
Piano, Organ:渋谷毅
Bass:川端民生
Drums:セシル・モンロー
Tenor Sax:植松孝夫

収録曲は、
Disc 4
 1. あたしが娼婦になったら
 2. こぼれる黄金の砂~DREAM TIME~
 3. マイ・マン
 4. 暗い日曜日
 5. 憂愁(II)
 6. 暗い眼をした女優
 7. こころ隠して
 8. 霧に潜む
 9. ちょうどいい時間

Disc 5
 1. JUST ANOTHER HONKY
 2. ガソリン・アレイ
 3. ロンサム・ロード
 4. セント・ジェームス病院
 5. 都会に雨が降るころ
 6. あの人は行った
 7. あんな女ははじめてのブルース

4-1と2はマキのアカペラ、ピアノの渋谷毅がステージに呼び込まれてのリリカルな名曲3、ズシリとした余韻を残す4、下山淳が呼ばれて浅川マキ作詩・下山作曲の5が始まる。下山のサイケデリックなエレキ・ギターがバリバリと轟く中、渋谷のオルガンが重なる。ドアーズの「ジ・エンド」な世界と言えなくもない演奏に浅川マキのポエトリー・リーディング的な歌声。8分30秒過ぎにドラムスのセシル・モンロー、そしてベースの川端民生、曲の終盤にはサックスの植松孝夫が加わる、およそ13分の長尺曲。続くグルーヴィーなリズムの6、レゲエ・タッチの7、8はギターのミックスが低くドラム、オルガンとサックスに掻き消されてちょっと残念な印象。9はギターで始まるイントロで、そのままバッキングに徹した演奏が続くが後半はなかなか盛り上がる。

5-1からはアコギに持ち替えて下山−浅川マキ、ふたりの世界。下山のフィンガーピッキング、丁寧なマキのヴォーカルを堪能できる。2は有名曲「ガソリン・アレイ」。イントロ部分の語りで浅川マキは “昨日久しぶりにこの歌を歌ったんですが、お客様から歌詞を間違えねばいいがなと思っていたら、やーっぱり間違えてしまったなどと言われまして…”と語っている。ライナーノーツにはこのライヴの年月日が特定出来ず、旧PIT INNで1日だけのライヴだったという下山淳の記憶から1991年3月30日と特定されているが、昨日この曲を歌った、という浅川マキの語りから前日にもライヴがあったということになる。なのでライナーノーツで除外された1991年6月22日、6月23日の2日間で行われたライブの2日目6月23日の可能性もあるのでは(前日の3月29日に別の場所でライヴがあったという可能性もあるけど)。

浅川マキの語りの続き、“私はもうすっかり忘れているよこんなこと… 代わりに歌っている人がいるわ。どっかのグループ、若い男ね。そんな風に誰かが歌ってってくれりゃいいのよ。ロッド・スチュワートよりいいわよ”
この若い男とは、1991年4月10日にリリースしたソロ2ndアルバム『HAPPY SONGS』の中で浅川マキ日本語詞の「ガソリンアレイ」をカヴァーした、当時ザ・ブルーハーツの真島昌利のことだろう。

3はバンド演奏でスタイリッシュな演奏に対して下山はスライド・ソロを披露。4と5ではギターレスと思われるバンド演奏。6はサックスが活躍するバラードで再び下山がステージに呼び込まれエレキで参加。アンコールの7はスローなブルース曲で下山もギター・ソロを弾き倒す。

1991年というと下山淳は60/40活動初期、この年は浅川マキが2月にリリースしたアルバム『black』に池畑潤二、奈良敏博とともに参加した。「憂愁(II)」はこのアルバム収録曲だ。この流れでギタリストとしてライヴ参加となったのだろう。池畑+奈良のリズム隊に野島健太郎のキーボードで浅川マキのバックを務めた1988年12月文芸坐のライヴ(1989年リリースのライヴ・アルバム『夜のカーニバル』に収録)や同じメンツで1曲参加したスタジオ・アルバム『STRANGER'S TOUCH』(1989年)、先の『black』とは違い、この新宿PIT INNのライヴでは名うてのジャズメンを相手に下山にとっては正直やや分の悪い印象を感じる場面もある。

このライヴで下山参加のベスト・トラックはフェイセズのアルバム『ウー・ラ・ラ』(1973年)収録「JUST ANOTHER HONKY」のアコースティックな日本語カヴァー(浅川マキ作詞)とロッドのカヴァーで下山のスライドを交えたアコギの溌剌とした演奏が聴ける『ガソリン・アレイ」の2曲かな。

他の場所のCDも聴き応えあり(なにしろ6枚で収録時間約6時間だからね…)。原田芳雄や南正人のゲスト参加曲もあるし、同じ曲を違う年違う場所で聴けるのもいい。爆竹が炸裂する「暗い眼をした女優」で始まるCD3の京大西部講堂のライヴはハイテンションで緊張感のあるスリリングな演奏が魅力だ(このライヴのみ以前『スキャンダル京大西部講堂1982』というタイトルで2011年にリリースされているようだ)。




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