My Wandering MUSIC History Vol.101 小山卓治 with THE CONX『NG!』
1983年6月22日、CBSソニーよりリリース。
キャッチコピーは「言っちまえばいいんだ。そこから、すべてが始まるんだから」だった。怖いもの知らずのタフなイメージ。熊本出身の小山卓治(当時25歳)が横浜のバンドTHE CONXとタッグを組み作り上げたデビュー・アルバム。言葉とギターを武器に都市(というか東京)を相手に格闘する怒れる若者という印象をアルバム全体から感じる。都市の路上で探しているのは報われる夢、それともハンパな夢なのか。
オープニング、フェイドインで始まる「1WEST 72 STREET NY NY 10023」。ブルースを歌うのが上手い男と上手にダンスを踊る女の出会いから2人が “ダコタ”にたどり着くまでを描いた、まるで16mmのモノクロフィルムを観ているような、それでいて歌詞に出てくるネックレスとかネオンとか壁のポスターとかって言葉の部分はカラーに着色されているようなイメージ。とても映像喚起力のある曲だ。出だしのフレーズ“あんた地下鉄の匂いがする”は、小山卓治が実際に言われた言葉だそう。男が歌うブルースはBRUCEじゃなくてBLUESの方がよかったと思うんだけど(歌詞カードにはBRUCEと書かれている)。
デビューシングルの「FILM GIRL」をTHE CONXと再録、曲名は「FILM GIRL #2」と名付けられた。サックスの響きが都会的で洗練された印象に生まれ変わった。「カーニバル」は真夜中に真実があると信じ、夜の街を彷徨う者達の歌で、2枚目のシングルになった疾走感のあるナンバー。スローなテンポの「ILLUSION」は都市生活者の見る幻影を浮かび上がらせる。
“ 綺麗な服着て綺麗な店で
おいしいものを食べてる君は
みんなとまったく同じに素敵だ ”
という歌詞が秀逸。アナログ盤ではここまでがA面。
アナログ盤ではB面トップのモップス「朝まで待てない」(1967年)のカヴァー。個人的にこのアルバムで一番好きなのが、オルガンの響きとベースラインが最高なネオロカ・テイストの「HEAT OF THE NIGHT」で、真夜中の聖者を気取り、ナイフのようなハンドルさばきで246をぶっ飛ばす自称ジョンその連れヨーコ。“約束をタイヤで踏みつけ”ってフレーズが威勢いいが、“ここ”から逃げられない閉塞感も漂う。
少年犯罪というヘヴィな内容をアコースティックな響きにのせた「Aの調書」。沢木耕太郎の著書『テロルの決算』に触発されたというが、さらにブルース・スプリングスティーンの曲「ネブラスカ」や「ジョニー99」からの影響もあるのでは。「No Good!」は都会では常に勝ち続けなければ暮らしていけないと悟るナイーブな男を主人公にしたアルバム・タイトルトラック。ラストはデビューシングルのカップリングだった「西からの便り」をTHE CONXと再録。ヘヴィなリズムに変わっている。西日本の山に囲まれた町。そこでは誰もが夢を抱いて東を目指し、この町を出ていく事を夢見ている。この曲の、
“ 出ていかなければ弱虫と呼ばれ
帰って来れば負け犬と笑われる ”
というフレーズがハードボイルドだな。
ジャケットは近藤良一による写真で、小山卓治 Offcial Web Siteのディスコグラフィに詳しく記されている。
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1986年7月21日リリースのCD
アルバムからシングルカットされた7インチ「カーニバル c/w NO GOOD!」
1983年6月21日リリース
参考文献:小山卓治 Offcial Web Site、長谷川博一編『ミスター・アウトサイド わたしがロックをえがく時』(1991年大栄出版)