安部公房著『箱男』
石井岳龍監督作品・映画『箱男』の原作(1973年発表)。これまで安部公房の小説を読んだのは『砂の女』くらいかな。先日電車移動する用事があって、駅で時間があり構内の本屋にふらっと入ったらこの映画版『箱男』のほぼ全面帯カバーがかかった文庫本(新潮文庫・右の画像)が売られていたので購入。まぁ映画観て原作読んでみたいなと思っていたんだが。
最初から難解な小説なのかなと思って読み始めるとほぼ映画と同様に話が進むので難なく読めて、面白く、ぐっと物語に引き込まれていくが、後半になって物語はぐねぐねと捩れ、迷路に迷い込んだような、どの章とどの章が関連しているのか、この章はあの章の前の話なのか、この人物とあの人物は同じなのか、などと考えてしまう、次元を超えた摩訶不思議な、構造の複雑な物語である。
“箱男は蛹である”、という記述や、今に通じる“ニュース中毒者”の逸話は興味深い。見る、覗く、書く、触れる等についての、そして匿名希望者についてのエクペリメンタルでイマジネイティヴな物語でもある。
原作を読んでこの不可思議な小説を映画化するのに石井岳龍ほどうってつけの監督はいないなと感じたし、映画におけるキックボードで移動する葉子の脚の際立たせ方や、軍医殿のダークで歪んだキャラクター、ワッペン乞食とのバトルシーンなど原作からイメージを膨らませた映像があらためて上手いなと感じた。原作にあったピアノを弾く体操の教師と少年D、箱男の父親に引かれた荷馬車に乗って結婚式へ向かうショパンという名の花婿の逸話は映画では描かれていなかったけど、このあたりは70年代的アンダーグラウンド感が強くなるため省かれたか。
もとの文庫本表紙
カーブミラーに映った家の写真で、撮影したのは安部公房。不思議で奇怪な雰囲気のある写真だ。この表紙装丁をいつから使用しているか分からないが、文庫初版は1982年(昭和57年)、2024年で74刷だ。
箱という蛹からどんな生き物が現れたのか、映画を観ても原作を読んでも私には謎のままである。