私の放浪音楽史 Vol.109 小山卓治『PASSING』

1985年6月21日、CBSソニーからリリース。

前作から約1年ぶりに発表された小山卓治のサード・アルバム。デビュー以来レコーディング、ライヴを共に活動したTHE CONXと別れ、自身のバンドとするべくメンバーを集めレコーディングした。

ドラムは引き続きTHE CONXのカースケこと河村智康。ギタリストにはSASの松田弘のソロ作や大沢誉志幸等のレコーディングに参加していた原田末秋。キーボードは小柴大造&エレファントや葛城ユキのバックで演奏していた三国直文。サックスは藤井正弘でパンタのスウィート路線時にバックで演奏していた。このアルバムでは1曲のみクレジットされている(他のサックスはリアルフィッシュの矢口博康)。ベースは山下好男で、サックスの藤井と同時期にパンタのバックを務めていたバンドT-BIRDのメンバーだった。

ミディアムなロックナンバー「気をつけたほうがいいぜ」に始まり、ジャングリーでリリカルなアレンジの「Night After Night」、映像を喚起させるリズミックな「裏窓」、アナログではA面のラストで8分に及ぶ感動的な力作「Passing Bell-帰郷」、原田末秋作曲の「Time」、ヘヴィでジャジーな雰囲気の「Lucky Guy」、アコースティックでハードな感触がある「Dogs」、原田のギターが活躍する「Escape」、穏やかな曲調の「もうすぐ」の9曲を収録。プロデュースは小山卓治と原田末秋。

なんといっても、友人の死をきっかけに昔仲間が集い、思い出を語る情景を歌った「Passing Bell-帰郷」が圧巻。この曲で歌われる“若さなんて棒に振るもの 俺達の口癖だった”というフレーズには影響されたな…そのまま人生を棒に振ったけどね…。

「Lucky Guy」はチキンレースと思われる男子が陥りがちな度胸試しの顛末を描いた、少しジェームス・ディーンの『理由なき反抗』を思い出す内容で印象に残る曲。

「もうすぐ」は男女の歌というより、少年と少し歳が離れた“君”が孤児院のような施設を抜け出し二人で生きて行くことを選んだ、という歌かなと思う。霞んだ空気に光が差し込むような穏やかなアレンジが好き。

小山の書く歌詞は都市に生きる人々の情景や感情を鋭く描き出す。コラムを読んでいるようでもあり、ハードボイルド小説や映画の登場人物のようなセリフもある。それにムーヴィーカメラのような視点。改めて聴いてみるとマッチョな肉体派ではないものの、時にずる賢く狡猾に、タフに生きてゆく“男”にとてもこだわっているなと感じる。女性を主人公にしたのは「裏窓」で、少女の初恋と大人の愛の悲しい結末を描いた。

レコーディングは1985年の春に行われ、その最中4月21日には渋谷LIVE INNで新バンドでの初ステージも行われている。ジャケットに使われた小山卓治のポートレート写真は近藤良一によるもの。小山の等身大の表情がいい。アルバム『NG!』のジャケット写真を撮影した写真家だ。

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参考文献:ミニコミ『OYAMA TIMES VOL.5』(1985年りぼん)


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