私の放浪音楽史 Vol.116 AZTEC CAMERA『HIGH LAND HARD RAIN』

1983年、ジャパンレコード/ラフ・トレードよりリリースのアルバム(イギリスでは1983年4月リリース)。

アズテック・カメラのファースト・アルバム。日本盤の帯には”アコースティックな青春を瑞々しく称えるアズテック・カメラ。ポスト・テクノにこのような音楽が流行ることを注目している”とムーンライダーズの鈴木慶一が推薦文を寄せている。

ジャケットのイラストとデザインはこれまでもラフ・トレードからのシングルのジャケットデザインを手掛けていたデイヴィッド・バンドによるもので、雨、女性、木、列車、ラッパを吹く人が描かれ、アルバムの内容のイメージをうまく表現していると思う。演奏メンバーは「Oblivious」と同じでキャンベル・オーエンスのベースは聴きどころ多し。

シングル曲「Oblivious」でアルバムが始まり、ホグマネイ(Hogmanay)というスコットランドの年越し祭りも歌詞に登場する「The Boy Wonders」はイントロがスコティッシュな軽快な曲。アルバムタイトルが後半のコーラスに歌い込まれている。

「Walk Out To Winter」は、“ジョー・ストラマーの顔写真が君の壁から落ちて 掛かっていた場所には何も無い”という歌詞が特別印象に残る曲。ロディ・フレイム自身パンクに共感し、バンドを始めた当初はクラッシュの「White Riot」や「Gargeland」を演奏していたそうだ。このアルバム『ハイランド・ハードレイン』がリリースされた1983年当時もはやクラッシュは空中分解寸前(ミック・ジョーンズ解雇直前)、パンクの掲げた権威への反抗とクラッシュの掲げた平等への理想は脆くも崩れ去り、パンクの理想の後に壁に掲げるものは何もないと歌ったこの「Walk Out To Winter」によりリスナーはあらためてパンクの終焉を認識することになったのである。

不穏な歌詞を歌うロディのヴォーカルが悲しげに聴こえる「The Bugle Sounds Again」。
 “吸血鬼達が殺人を犯す
 奴らのポケットは小銭で溢れ
 誰かが代償を払わなければならないと言う”
と現代にも通じるラインがある。

続いてポストカードからのデビューシングル(「Just Like Gold」)のB面曲の再録「We Could Send Letters」はアルバムのなかで一番ニューウェイヴぽいアレンジかな(ここまでがアナログA面)。

“かつて幸せで、幸せの極みにあった僕は
 自由へと続く道にむけて荷物をまとめている
 あちらからこちらへと僕は駆り立てられているようだ”
と、とびきりポップでキャッチーなメロディにのせて歌われる「Pillar To Post」は3枚目のシングル曲(リリースはラフトレード)でアルバム・バージョン。“赤旗を記念品にここを離れるよ”と歌われるボサノヴァタッチな「Release」、ポストカードからのセカンドシングル(「Mattress of Wire」)のB面曲の再録「Lost Outside The Tunnel」は曲の後半のスパニッシュなアレンジが魅力。

「Back On Board」は、人生のやり直しを、
”再び墓場行きの列車に乗るんだ
 僕もまた乗るから、抱きしめておくれ”
とソウルフルに歌う。バックに流れるバーニー・クラークの弾くオルガンも印象的。ラストはフォーキーな「Down The Dip」で、シェイキンなアコースティックギターのストロークとロディの力強いヴォーカルの余韻を残してアルバムは終了。

全編歪んだギターサウンドではなく、アコギにセミアコ、クリアーなトーンで貫かれたギターが縦横無尽に活躍するアルバム。そのポップなサウンドには、リリース当時19歳だったロディの疑念、挫折や決意など様々な感情が、そしてなにより音楽への激しい思いを潜ませている。「The Boy Wonders」の歌詞に書かれた、”君に垣間見せるのは激しさとクリアー” そのものと言っていいだろう。

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