私の放浪音楽史 Vol.118 THE SMITHS『THE SMITHS』
1984年、徳間ジャパン/ラフ・トレードよりリリースのアルバム(イギリスでは1984年2月リリース)。
 
 
以前モリッシー自伝を取り上げた時にも紹介したが、1997年にアルバム『マルアジャステッド』を発表後しばらくしてモリッシーは“ 黒板のような空 ”のイギリスを離れ、“毎朝間違いなく寝室の窓に日光が射し込む ”アメリカ・ロサンジェルスのウエスト・ハリウッドに家を購入し移り住む。
1984年の初め、リリースされたばかりのザ・スミスのファースト・アルバム『THE SMITHS』を友人のHちゃんに借りて繰り返し繰り返し聴いていた時に私が持った印象は、やはり冬のどんよりとして寒々とした曇り空、雪がちらつく灰色の空だった。
1曲目の「Reel Around The Fountain」、イントロには短くドラムの抑えた演奏、そしてモリッシーが歌い始める。
“今、物語を語る時が来た どうやって子供を連れ去りあなたが使い古しにしたのか
 噴水のまわりをぐるぐると回る
 中庭で僕を叩いて
 僕は受け入れる
 あぁ、君との15分間
 僕は嫌だと言わないだろう”
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドに共通するようなイメージに満ち、メランコリックなアルペジオのギターにのせて淡々と歌うモリッシー。途中からポール・キャラックのピアノとオルガンが加わり、さらに憂いは増す。
アナログでA面のラストにおかれた「The Hand That Rocks The Cradle」は、
 “僕たちは共に横たわり、共に祈りを捧げる
 だから切ない願いを君の瞳に宿すことはないんだよ
 揺りかごを揺らす手が僕の手である限りは”
と幼い子供とともに過ごすことを淡々とした揺らぐような歌声で歌い、楽曲のラストにはアル・ジョンソンの楽曲「Sonny Boy」から歌詞の引用をしている(インナースリーブに”Quotation from Sonny Boy”とクレジットがある)。
 “僕の膝の上に登っておいで坊や
 君はまだ3つだよね、坊や”
「The Hand That Rocks The Cradle」は、モリッシーとマーが出会って最初に作られた曲でもある。
ブルーな雰囲気はアルバム・ラストに置かれた「Suffer Little Children」でさらに増幅されている。マンチェスターのサドルワース・ムーアで実際にあった連続児童誘拐殺人事件に材をとったこの曲でモリッシーは犠牲になった5人の被害児童のうち3人の実名と犯人ひとりの実名を歌詞に使用している。この曲もモリッシー&マーの最初期に作られた曲。
 “僕を見つけて、私を探し出して、ただ見つけて欲しい
 僕たちは陰鬱で霧深い荒野にいるよ
 おぉマンチェスター、いくつもの謎に答える責任がある
 おぉマンチェスター、多すぎる謎を解き明かす責任がある”
このアルバム収録曲は全てザ・スミスの代表曲ばかりだが、パンキーで疾走感のある「You've  Got Everything Now 」はギターのカッティングとベースラインのアンサンブルがかっこいい。“僕は君のものを見て、君は僕のものを笑う。だから愛はただ惨めな嘘。”という衝撃的な「Miserable Lie」、裏打ちでゆったりしたリズムの「Pretty Girls Make Graves」、“イングランドは僕のもの、だから僕の生活を保障する義務がある”と高らかに歌うスピーディな「Still Ill」、ファーストシングルをリミックスした「Hand In Glove」、ギターリフが強烈なフックになっている「What Difference Does It Make?」、ロマンチックな「I Don't Owe You Anything」とどれも名曲。
プロデュースは当初ティアドロップ・エクプローズのギタリストだったトロイ・テイトだったがバンド側が出来上がりに満足せず、ジョン・ポーターに交代した。
モリッシーがデザインしたジャケットは、アンディ・ウォーホル制作の映画『フレッシュ(FLESH)』(監督:ポール・モリッシー・1968年)からジョー・ダレッサンドロが使われている(元の画像は隣で舌を出す男ルイス・ウォルドンが写っている)。
インナースリーブにはメンバー4人のそれぞれの写真が掲載されてるが、マイクを持つモリッシーのライヴ写真は、日本人のロミ・モリ(クレジットはROMI)によるもので、パンクに影響を受け1983年にカメラを携え渡英。ライヴでザ・スミスを撮影した写真をマーに渡し、モリッシーから「アルバムの内側のスリーヴに使ったから」と事後承諾の手紙をもらったという。ロミの渡英時の詳しい経緯などはシンコーミュージックから刊行されたムック本『from PUNK to POST-PUNK』(2018年)に詳しい。
参考文献:『モリッシー&マー・茨の同盟』ジョニー・ローガン著・丸山京子訳(シンコーミュージック刊・1993年)、『ジョニー・マー自伝 』丸山京子訳(シンコーミュージック刊・2017年)、CROSSBEAT Presents『from PUNK to POST-PUNK』(シンコーミュージック刊・2018年)
