映画『バック・ビート』

実は私のビートルズ歴は浅い。
パンク・ロックの影響をもろに受けてきた私は、エルビスもストーンズもビートルズも真面目に聞いていなかったし、ビートルズのレコードもCDも持っていなかった(友人に録音してもらったテープは持っていたけれど)。
始めてビートルズのCDを買ったのは、音楽に興味のなかった仕事仲間が「イエスタディ」などの曲を期待して買ったが、つまらないので2枚1500円くらいで売ってくれた、『Past Masters 1』と『Past Masters 2』だった。たしか1991年頃だったと思う。それでも頻繁に聞く事のないビートルズであった。この映画を見るまでは。

”パンク・ロックというのはRebel Musicのことだ”と言ったのはジョー・ストラマーだが、この映画を見て初期のビートルズにRebel Musicを感じた。それは、学校の音楽の時間で『サージェント・ペパーズ~』を聞いたり、モス・バーガーでハンバーガーを食べながら聞くビートルズや、角川映画で聞く「Let It Be」に感じていた印象とは違うものだった。

知性的だが、シャイで皮肉屋で挑戦的に成功を目指す、ジョン・レノン。
当初から音楽的な幅が広く、自分の音楽的信念に忠実なポール・マッカトニー。
最年少ながら情熱を持ってライブをこなす、ジョージ・ハリスン。
リンゴよりも直線的なビートを叩き出す、クールなピート・ベスト。
ベースが弾けないのにグループに入れられ、ステージでは客に背中を向けて弾くスチュワート・サトクリフ。
そしてビートルズに魅入られ、スチュと恋に落ちる才女、アストリッド・キルヒャー。

彼等が楽器や絵筆を手に、世界に対して挑む姿が事実を元に、魅力的に描かれている作品だ。
革ジャンにリーゼント・スタイルで当時流行りのR&R、R&Bを演奏するビートルズ。より良い仕事場を見つけるため、また腕を磨くためにハンブルクへ向かう。
そこでの熱狂的なステージ・シーンが登場するが、サウンドトラックを担当しているのは、当時のニルヴァーナやソニック・ユース、REM等のメンバーを集めた”バック・ビート・バンド”だ。そのワイルドな演奏が、さらに映画の中のビートルズに親近感を持たせたのかも知れない。ちなみに、サウンドトラック・アルバムは12曲で30分弱と短いが、愛聴盤となっている。

物語は、ハンブルクでのスチュとアストリッドの出合い、恋、スチュの脱退、画家としての再出発と発病.....と進んでいく。アストリッドが現実のビートルズを撮影した、モノクロームの写真もロックンロールや物語性を感じさせるものだが、そのあたりのエピソードも描かれている。言うまでもないが、アストリッド役のシェリル・リーはアメリカのTVシリーズ『ツイン・ピークス』のロ-ラ・パ-マ-役で有名(ツイン・ピークスについては今後この欄でぜひ書きたい)。
この映画に共感した私は、急速にビートルズやジョン・レノンの本を読み漁り、オフィシャルやブートレッグのCDを集めることとなり、ビートルズに対する見方も変わった。しばらく、その熱は続いたが『アンソロジー3』がリリースされる頃には治っていった。
『バック・ビート』に描かれた後のビートルズは、ピート・ベストがリンゴ・スターに変わり、栄光の道を歩き出すのだが、アストリッドのその後は、かなり茨の道だったことが映画公開後しばらくして出版された自伝に書かれている。この自伝は必読。

とにかく、私のビートルズ観を一変させた一本である。

『BACK BEAT』
STAFF
監督 : Iain Softley
脚本 : Iain Softley、Michael Thomas、Stephen Ward
撮影監督  :  Ian Wilson
製作総指揮 : Nik Powell
プロデューサー : Stephen Wooley、Finola Dwyer
音楽プロデュース : Don Was

CAST
Stuart Sutcliffe : Stephen Dorff
Astrid Kirchherr : Sheryl Lee
John Lennon  :  Ian Hart
Paul McCartney : Gary Bakewell
George Harrison : Chris O'neill
Pete Best : Scott Williams

  
イギリス映画/1時間40分
公開: 1994年
製作 : Scala Productions
配給 : Dela Corporation Inc.


  

このブログの人気の投稿

TH eROCKERS「可愛いあの娘」

NICO『LIVE IN DENMARK』

ザ・ルースターズ「PLAYLIST from ARTISTS」