スティーヴ・ジョーンズ著・川田倫代訳『ロンリー・ボーイ ア・セックス・ピストル・ストーリー』
セックス・ピストルズのギタリスト、スティーヴ・ジョーンズの自伝の邦訳が出版された(本書の最後に執筆協力者としてベン・トンプソンの名前が書かれている)。原書は『LONELY BOY・TALES FROM A SEX PISTOL』で、2016年に出ていたようだ。
ピストルズ関係では、これまでジョン・ライドン自伝『STILL A PUNK』(ロッキング・オン社・1994年)、シンコー・ミュージックや宝島社から出てたピストルズ関連本、写真集、ディスクガイドなど読んだり見たりしていたので、スティーヴ・ジョーンズの自伝か…どうするかなーと思っていたら、たまたま立ち寄った本屋にあったのでつい買ってしまった。
複雑な家庭環境で育ち、読み書きがほとんど出来ない事から学校で授業についていけず、貧困、小児性愛被害といったトラウマを抱え、それらを無かった事にするため、それから逃避するために、幼くして窃盗、飲酒、薬物に手を染めた。そこからひたすら盗・薬・女を延々と続ける事になる。盗んだのは自転車、バイク、ギター、服、靴…どれも一流のものを。キース・リチャーズやモット・ザ・フープルのアリエル・ベンダー、デイヴィッド・ボウイとスパイダース・フロム・マーズ、ブライアン・フェリーからも盗んだ。それに盗難車に無免許運転。非道で放蕩な私生活が赤裸々に綴られている。
子供の頃からコンプレックスとなっていた読み書き(本人によれば “今、学校に通っている子どもであれば、すぐに難読症やADHD[注意欠如・多動症]と診断されていただろう”)は、30代になって週に2度、1時間ほどの個人レッスンを約半年間続けて習得したそうだ。
もちろん本書には、セックス・ピストルズやその後のプロフェッショナルズ、ソロ活動などのミュージシャンとしての活動の記述もあるが、ほぼ最初から最後まで盗・薬・女の話題は通底している。それらの依存・中毒から抜け出すために12ステップ・プログラムに参加し、本書後半には悪癖との苦闘が描かれている。スティーヴ・ジョーンズもデイヴィッド・リンチの超越瞑想が好きで、気持ちがとても落ち着くと記している。そして歳を重ねるにつれて他者に思いやりを持つようになっているという。
さて、本書にはピストルズ以前のバンドについてメンバーやバンド名の記載があるのでまとめてみるとこんな感じか。
THE STRAND(ザ・ストランド)
Vo&G:スティーヴ・ジョーンズ
G:ウォーリー・ナイチンゲール
B:スティーヴン・ヘイズ →デル・ヌーンズに交代
Key:ジミー・マッケン →脱退
Dr:ポール・クック
*スティーヴ・ジョーンズが組んだ最初のバンド。バンド名はロキシー・ミュージックのアルバムから名付けられた。1973年に活動を始めたと思われる。
THE SWANKERS(ザ・スワンカーズ)
Vo&G:スティーヴ・ジョーンズ
G:ウォーリー・ナイチンゲール
B:デル・ヌーンズ →グレン・マトロックに交代
Dr:ポール・クック
*マルコム・マクラーレンが関わるようになる。
スティーヴが初めてのオリジナル曲「Scarface」(のちの「Seventeen」)を作る。
KUTIE JONES AND HIS SEX PISTOLS(キューテー・ジョーンズ・アンド・ヒズ・セックス・ピストルズ)
Vo&G:スティーヴ・ジョーンズ
G:ウォーリー・ナイチンゲール →脱退
B:グレン・マトロック
Dr:ポール・クック
*スティーヴは自分がヴォーカリストには向いていないとし、ヴォーカリストを探した。
ミッジ・ユーロ、デイヴ・ヴァニアン、ミック・ジョーンズ、クリッシー・ハインドが候補に上がったという。マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドの店「SEX」に客として来ていたジョン・ライドンが加入することになる。
SEX PISTOLS
Vo:ジョニー・ロットン
G:スティーヴ・ジョーンズ
B:グレン・マトロック
Dr:ポール・クック
*見た目が良くないという理由でギタリストのウォーリーはバンドを追い出された。スティーヴはまだ技術的に発展途上として新たにギタリストを探すことにし、メロディーメイカー紙に求人を出す。いわく「20歳かそれ以下の天才ギタリスト募集・ジョニー・サンダースより悪くないルックスであること」という条件だったが、結局オーディションではバンドが期待したようなギタリストは現れず4人で活動することを決意、バンド名もセックス・ピストルズとなった。
いろいろと興味深いエピソードはあるが、ピストルズの作曲について、グレン・マトロックが非常にややこしいコード進行(ファッキン・ビートル・コード)を考え出すとスティーヴがそれをブルトーザーで壊していき、セブンス・コードやイレブンス・コードなんてものを気にしない人間がギターを弾くことで、直接的でありながら、単純じゃないものが出来上がる、という表現が非常に面白かった。
シドのベースのその後についてもなかなか非道な事をするスティーヴ…。
写真も掲載されており、ポール・シムノンとスティーヴがそれぞれのハーレーに跨り、モハーベ砂漠で写した見開きのショットには痺れたなー。