アンソロジー(小池真理子・他)『YUMING TRIBUTE STORIES』

2022年7月1日、新潮社(新潮文庫)より出版。

 “松任谷由実デビュー50周年記念オリジナル小説集"が出版された。
ユーミンの名曲6曲を、6人の女性作家が書き下ろしたオリジナル小説集だ。

小池真理子「あの日にかえりたい」
1975年10月5日にリリースされた、荒井由美6枚目のシングル(「あの日にかえりたい c/w 少しだけ片想い」)より。
著者紹介によると小池真理子は1952年生まれ。ユーミンと同年代なので10代の多感な時期に1969年〜1972年にかけて燃え上がり鎮火した全共闘〜新左翼運動の激動の時代の景色を見ていただろう。もちろんそれぞれの受け取り方は違うと思うが…。

主人公の女性が著者やユーミンと同年代とすると、2022年から1972年を振り返ったと思われる設定で、主人公の友人や同じアパートに住む住人達の物語。左翼活動家や大学の立て看板、アジビラが登場する、あの頃…。

“今愛を捨ててしまえば 傷つける人もないけど”
という歌詞のフレーズに深く切り込んだような内容の、読み応えのある作品となっている。

桐野夏生「DESTINY」
1979年12月1日リリースのアルバム『悲しいほどお天気』収録曲。
オチのついた歌詞のアップテンポな私も大好きな曲。桐野夏生は『OUT』や『グロテスク』など、ヘヴィな内容の小説をいくつか読んでるけど、規則正しい日常を過ごすことを第一とし、感情のざわつくことを出来るだけ避けている若い会社員が“運命の人”に出会ってしまう、ライトで楽しめる内容。

江國香織「夕涼み」
1982年6月21日リリースのアルバム『PEARL PIERCE』収録曲。この曲の原曲はフィリピン人歌手クー・レデスマ(Kuh Ledesma)に曲のみ提供した「夏物語(One Day Soon)」 (作詞はGreg Starr)。
ユーミンが夏のある1日の終わりを描いた内容を、江國は、結婚生活で竦むような恐怖を経験した姉とこれから結婚する妹の会話を中心に、姉が外国で目撃した夕涼みの思い出話が奇妙な印象を残す。

綿矢りさ「青春のリグレット」
1985年11月30日リリースのアルバム『DA・DI・DA』収録曲。もとは1984年麗美に提供した曲で麗美のシングルとしてリリースもされているから、あどけない雰囲気の麗美ヴァージョンは当時よく聴いた。
歌詞の内容を巧みに織り込み、刺激的で刹那的な恋愛を切望し、くつろぎと安らぎの中に退屈しか見出せなかった女性が主人公。きれいな心を持て遊び、物足りないと罪悪感を植え付け別れた男性に対する暗い影のような後悔を描く。

柚木麻子「冬の終わり」
1992年11月27日リリースのアルバム『TEARS AND REASONS』収録曲。
ユーミンの「冬の終わり」をきっかけに、同僚との親交を深めようとするフードコート勤務の女性。音楽と感情の“再生”を焦点にしているように思える。

川上弘美「春よ、来い」
1994年10月24日リリースのシングルより。
ひとつだけ願いが叶うという“あれ”を持つという人々が、導かれるようにある場所に集い、願うこととは…。さまざまな想いがやがて交差する。歌が持つパワーと、願うということの本質に迫る。

どの作品も楽しめるが、個人的には小池真理子「あの日にかえりたい」が特に印象深かったな。ユーミンのオリジナル曲は400曲以上あるそうだけど、この作家がどうしてこの曲を選んだのかもちょっと知りたい。パート2もあったらいいな。

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