My Wandering MUSIC History Vol.106 TOM WAITS『CLOSING TIME』
1973年、アサイラム・レコードよりリリースのアルバム。
このアルバムを聴いたのは1980年代初め頃。その頃聴いたアメリカのバンドやアーティストで強く影響を受けたアルバムが3枚ある。ブルース・スプリングスティーン『明日なき暴走』、テレヴィジョン『マーキー・ムーン』、そしてこのトム・ウェイツのデビュー・アルバム『クロージング・タイム』だった。
ジャケットのトム・ウェイツが寄りかかる古ぼけたピアノの上には吸い殻の山になった灰皿、グラスに酒瓶、右上の時計の針は(おそらく午前)3時20分過ぎを指している。閉店時間(CLOSING TIME)だ。アルバムの内容を感じさせるカヴァーアート。
オープニングは夜明けを55年型の車に乗って走る情景を描いた「Ol' 55」。ピアノのリリカルな響き、アコースティックなセット中心のゆったりしたサウンドが心地よい。この曲はイーグルスがカントリーなフレイヴァーでカヴァーし『オン・ザ・ボーダー』(1974年)に収録された。フォーキーな「I Hope That I Don't Fall In Love With You」、ジャジーな「Virginia Avenue」、カントリーな「Old Shoes (& Picture Postcards)」、ミュートしたトランペットの音が優しいロマンティックな子守唄「Midnight Lullaby」、アナログ盤だとA面のラストだった切なく苦い「Martha」は40年以上前に付き合い別れた女性へのメッセージ。俺の全てはお前で、お前の全てはおれだった、だけど二人が一緒にいられない理由は、俺が男だったからだ、という男女間の友情がテーマなのかも。
アナログ盤だとB面の始まりはマーサに続いて女性の名前ロージーに語りかける「Rosie」、トム・ウェイツのピアノとヴォーカルのみで思い焦がれる感情を歌うセンチメンタルな「Lonely」、アップテンポな「Ice Cream Man」はセクシャルなイメージの歌詞で歌われ、曲の終わりにはイントロのピアノのメロディがオルゴールの音色となって幻惑的に響く。続いてこれもまた美しいメロディを紡ぐ「Little Trip To Heaven (On The Wings of Your Love)」、夜空に輝くグレープフルーツのような月とひとつの星、消えてゆく輝きと無垢、ハートブレイクなメロディについて想いを馳せる歌詞を、ピアノに絡むドラマチックなストリングスにのせて歌う「Grapefruit Moon」。ラストはインスト曲「Closing Time」で、まるで映画のエンドタイトルのようにアルバムは終わる。
アルバム全体を通してトム・ウェイツの声は、よれて、しゃがれているけど、心温かく感じる。若い頃はこのアルバムをかけてバーボン飲んでたな。
1991年にはデビュー前の1971年に録音したデモを集めた『アーリィ・イヤーズ』が、1992年に同じデモ録音の続編『アーリィ・イヤーズ Vol.2』がリリースされた。『アーリィ・イヤーズ』には13曲が収録されており、デビュー・アルバム収録の4曲「Ice Cream Man」、「Virginia Avenue」、「Midnight Lullaby」、「Little Trip To Heaven」のデモ録音が収録されている。
TOM WAITS『THE EARLY YEARS』(1991年)
『アーリィ・イヤーズ Vol.2』には13曲が収録されており「I Hope That I Don't Fall In Love With You」、「Ol' 55」、「Grapefruit Moon」、「Old Shoes」4曲のデモ録音を聴くことができる。
TOM WAITS『THE EARLY YEARS Vol.2』(1992年)