BOLSHIE『THE BOX』
2022年2月25日、BASEよりリリースのボックス・セット。
先日紹介した真島昌利著 “自伝的ディスク・ガイド” 『ロックンロール・レコーダー』に交友関係が記されていたバンド、ボルシーのCD5枚組ボックス・セットがリリースされた。これまで公式に発表されていたボルシーの楽曲は、1979年4月にビクターよりリリースされたオムニバス・アルバム『東京ニュー・ウェイヴ'79』に収録されていた「ロボット・イン・ホスピタル」、「クロックワーク・アーツ」、「ノスタルジック・ボーイ」の3曲のみ。1978年5月頃にバンド結成、8月13日の初ライヴから1979年5月8日のラスト・ライヴまでほぼ1年の活動をパックしたボックス・セットとなった。
各CDの内容だが、
CD1
Track1〜12:1978年11月19日、ライヴ at S-KENスタジオ
Track13〜19:1978年 デモ音源 at S-KENスタジオ
CD2
Track1〜11:1978年9月24日、ライヴ at 新宿ライヒ館モレノ
Track12〜21:1979年1月21日、ライヴ at 新宿ライヒ館モレノ
CD3
Track1〜13:1979年2月10日、ライヴ at 新宿ロフト
CD4
Track1〜15:1979年5月8日、ライヴ at 新宿ロフト
CD5
Track1〜16:1979年 デモ音源 at PARISスタジオ(上野耕路プロデュース)
となっている。
クラッシュやダムド等のレコードを聴いて影響を受け、楽器を手にし、バンドを組み、歌い始めた若きパンクス・ボルシーの激しいエナジーとクールな感覚を聴く事ができる。当時メンバー全員高校生・平均年齢16.5才と紹介されていたが、ベースラインやロックンロールなギター、コーラスなど工夫された楽曲の構成・アレンジ、歌詞の内容は非凡なものと思う。
1978年11月19日の S-KENスタジオでのライヴ(CD1)は、「ロボット・イン・ホスピタル」を除く曲が全て3分未満で、ミッド・テンポで凡庸への埋没を歌う「Heavy」以外はカッ飛びチューン連続、その勢いが魅力的だ。1978年9月24日の新宿ライヒ館モレノでのライヴ(CD2)も曲目は若干異なるが同様のハイ・スピード、ショートチューンのライヴ。個人的にはこのCD1のライヴ部分が好み。
ボックスのハイライトのひとつはCD2のTrack12〜21だろう。1979年1月21日に新宿ライヒ館モレノでおこなわれ、アルバム『東京ニュー・ウェイヴ'79』に3曲が収録されたライヴのフル音源。音質も比較的良く、ヴォーカルも聴き取り易く、ベースの音もクリアに聴けるが、ギターの音がやや小さいのが残念だ。オムニバス収録時とは別ソースのテープを使用していると思われる。
ブックレットではボルシーが “もっとも勢いと気迫があった時期 ”のライヴと書かれているのがCD3で、バンド結成から約半年、楽曲数や演奏のまとまり等、確かにトリオ編成での初期ボルシーの充実を感じさせる演奏だ。
1979年5月8日の新宿ロフトでのライヴ(CD4)は、トリオからキーボードを入れた4人編成になったライヴで、ボルシーの最後のライヴとなった。ヘヴィなファンク「Nothing」や複合拍子系「1/3」が変化するボルシーを感じさせる曲だ。キーボードの加入により、これまでのコンクリート打ちっぱなしのような硬質な質感と色彩に、ところどころカラフルな印象の演奏になっていると思う。1979年のイラン革命を思わせる「Like Iran」という曲もある。
CD5は、5月8日のライヴの後(日付は明記されていない)に、当時8 1/2の上野耕路プロデュースでスタジオ録音された音源。録音場所はPARIS STUDIO(パリ美容室)と表記されているが、ネットで検索してみると、どうやら上野耕路の実家が経営していた千葉市のパリー美容専門学校の一室で、8 1/2やハルメンズの音源を録音していた場所のようだ。
オリジナル曲の他、CD1(ライヴ)とCD2に999「Emergency」、CD2にWIRE「12XU」、CD3にTHE CLASH「1977」、CD1(デモ)・CD3・CD4・CD5にPink Floydの「Take Up The Stethoscope And Walk」のカヴァーを演奏しているのも注目だ。なかでも「Take Up The Stethoscope And Walk」はピンク・フロイドのファースト・アルバム『THE PIPER AT THE GATES OF DAWN(邦題:夜明けの口笛吹き)』収録曲の激烈パンク・カヴァーで「Part-2」とタイトルを変えている。
付属のカラーブックレット(12ページ)にはボルシーのバイオグラフィ、CDを制作したBASEの飯嶋俊男、ボルシーのVo&B横山智幸)によるCD内容解説、SMASHの杉中敏によるボルシー活動解説の他、当時の写真やフライヤーが掲載されている。歌詞の掲載は無い。
ジャケット印刷に間違いがあり(CD2の曲順と日付、CD3の曲目)、差し替え用に正しい内容のジャケット2種が封入されていた。ブックレットのCD2内容解説にも曲順の間違いがあると思うけど。
音質はこういった(おそらく)個人のオーディエンス録音のカセット・テープをソースとした発掘音源を聴いていれば問題なく聴けるクオリティと思うが、CD2の新宿ライヒ館モレノ・1978年9月24日のライヴ音源はあまり音質がよくない。
収録時間3時間29分、延べ84曲、日本のパンク史を補完する貴重な音源だが、限定300セットだった。
同時リリースされたのがCD『1979 UNRELEASED STUDIO TRACKS』だが、こちらも限定受注生産品で、上野耕路プロデュースのスタジオ音源に違和感をもったメンバーがバンド自身のプロデュースでレコーディングしたスタジオ音源13曲と、Vo&B石田とキーボード石井の二人が1982年に制作した2曲が収録されている。リリース・インフォをよく読まなかったんだけど、1979年のスタジオ録音ってボックスと違うのかー。気づいた時にはもう完売してるしー!。