浅川マキ「朝日楼」

アニマルズがリリースした「The House of The Rising Sun」。1964年にシングルリリースされ全米・全英で1位を記録する大ヒットとなった。日本でも「朝日のあたる家」という邦題がつけられヒット、私が聴いたのは1970年代後半だと思うが洋楽に興味があればラジオなどで耳に入ってくる曲だった。でも「朝日のあたる家」という邦題はなんか違和感があって、マイナー調のコード進行、もの悲しく響くオルガン、絞り出すようなエリック・バードンのボーカルに、“朝日のあたる”という言葉から受ける暖かで希望があるイメージがどうも一致しなかった。その頃歌詞をきちんと読み込んでいたわけではないのでタイトルと曲調から、なんとなく冷たい朝を溶かすような内容の曲なのかな、という印象を持っていたものだ。

それから幾年月…2020年にリリースされた浅川マキのシングル曲を集めたCD『SINGLE COLLECTION』を聴いた。彼女の自作詞による楽曲にはいくつも感銘を受けた。彼女の楽曲をもっと聴きたかった。そのころ浅川マキのCDは多くが廃盤だったと思うが2010年、浅川マキ没後に編まれリリースされたCD2枚組コンピレーション『Long Good-bye』を入手した(右上の画像)。コンピレーションとしてはこの『Long Good-bye』に初収録された「朝日楼」にはとりわけ心打たれた。それは「The House of  The Rising Sun」に浅川マキが日本語詞をつけたカヴァーだった。

アニマルズ・ヴァージョンでは歌詞が男性の語りで書かれたものが歌われているが、女性の視点で描かれたヴァージョンもある(この曲はトラディショナルなので歌詞の違いは様々ある)。例えば1962年にリリースされたボブ・ディランのファーストアルバムに収録されていた。曲名は「House of The Risin' Sun」とクレジットされている。
There is a house in New Orleans
They call the rising sun
And It's been the ruin of many poor girl and me
Oh God, I'm one
“ニューオーリンズに人々から朝日と呼ばれている館がある
 そこは多くの貧しい少女を破滅させてきた
 そして、あぁ神様、私もそのひとり”

ここではライジング・サンという場所は、貧しい女性達を食い物にし破滅させる娼館を暗示させる。浅川マキのヴァージョンも女性の視点から描かれたものだ。歌い出しはこうだ。

“あたしが着いたのはニューオーリンズの
 朝日楼という名の女郎屋だった”

そうだよね…ライジング・サンは屋号なんだ。朝日屋でも日の出ハウスでもいいが朝日楼と名づけたのはさすが。曲名はシンプルに直訳すれば「朝日という家」だったのね(まぁ当時からちょっと調べればわかったんだろうが…)。

浅川マキの「朝日楼」では、仕立て屋の母親、酒浸りのギャンブラーで流れ者の恋人という人物像も省いて、こう続ける。
“愛しい男が帰らなかった
 あん時あたしは故郷(くに)を出たのさ

 汽車に乗ってまた汽車に乗って
 貧しいあたしに変わりはないが

 時々想うのはふるさとの
 あのプラットホームの薄暗さ”

短い言葉でシンプルに歌の世界を作り上げる…なにを省き、どこを残すのか、どの言葉を選んで訳すのか…そして原曲の核心を捉え表現する。このコンピレーションに収録されたのは1972年にリリースされたライヴ・アルバム『MAKI LIVE』(新宿紀伊國屋ホールでのライヴ)からで、この曲の演奏は2本のギターだが、歌の部分はほぼヴォーカルのみで、歌い出しはスローだが、間奏のギターでは乗り継ぐ汽車のようにぐんとスピードアップしていく演奏を聴かせる。そしてまたスローダウンして女郎屋に舞い戻ってきたかのように浅川マキは歌う。

“誰か言っとくれ妹に
 こんなになったらおしまいだってね

 あたしが着いたのはニューオーリンズの
 朝日楼という名の女郎屋だった”

セカンド・アルバム『MAKI II』にも新宿花園神社でのライヴ・ヴァージョンが収録されている。こちらもギター2本による演奏だがスピーディにも聴こえるギターのストロークとブルージーなオブリガートにのせて歌われ、タイトルは「朝日のあたる家」とクレジットされている。
浅川マキ『MAKI II』(オリジナル・リリース1971年)上の画像は1992年リリースのCD


『ボブ・ディラン』(オリジナル・リリース1962年)上の画像は1988年リリースのCD

「House of The Risin' Sun」が収録されたボブ・ディランのファースト・アルバム。この可愛らしい外見からは想像できない渋い声。全曲ディランの弾き語りだが、曲によってはこのヴォーカル、ギター、ハーモニカのスピード感とざらついたフィーリングにはパンクを感じる、弾き語りで歌っていた遠藤ミチロウを通過した今となっては…。


CD-ROM『HIGHWAY 61 INTERACTIVE』(1995年リリース)

「The House of The Rising Sun」の”エレクトリック・ヴァージョン”を収録したCD-ROM。ファースト・アルバム収録の弾き語り「House of The Risin' Sun」にエレキギター、ベース、ドラム、ピアノをオーヴァーダブしたヴァージョン。ファーストの弾き語りは6分ほどあるが、ヴォーカルの中盤を省いて約2分40秒のトラックにしている。今ではYouTubeで聴けると思う。レコード・コレクターズ増刊『ボブ・ディラン・ディスク・ガイド・復刻版』(2010年・ミュージックマガジン刊)によれば1964年12月8日にオーバーダブしたと書かれている。

下記のリンクにはトラディショナルーディランーアニマルズーニーナ・シモンー浅川マキの「朝日のあたる家」を検証・解説した二階堂尚によるコラム2本。“朝日があたる”という景色をタイトルにした理由もここからは読み取れる。

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